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第二章 宝玉とわがままな女神 

 プロローグ  中の国の桜の宮が、神子の召喚をした。その神子は稀有な災厄の神子だった。  まだ誰のものでもない災厄の神子を捕らえて番契約をさせなければ、国のパワーバランスがひっくり返る騒動になるだろう。  各国の諜報機関が掴んでいるこの情報に皆一様に頭を悩ませる王族達。  近年、多少の小競り合いはあるものの、大きな戦乱もなくやっと安定の兆しを見せてきたところだと言うのに。  この国の玉座に座る王もその1人だった。謁見が終わり、ちょうど一息いれるタイミングで、思わずため息をついた。  中年層に差し掛かったとはいえ、昨今まで戦とあらば、先陣を切って相手の大将の首を取るほどの活躍を見せるその身体は、能力に比例してがっしりと鍛え上げられており、その眼光も鋭い。 「ふふ、何のため息なのかしら。」  玉座の隣に、同じく座っている王妃は、隙を見せない洗練された所作で王に語りかける。  年相応ではないその美貌は、長年王を支え、この王国を支えてきたと言う自信とその強い意志から来るものだろうか。 「いや、ここで話すことではないな。謁見も終わったことだ。部屋へ戻ろうか。」  30分もすれば、執務の時間だと宰相部の者が呼びに来るだろう。と、うんざりと思いながら、王は王妃を伴って、王室へと戻っていった。 「で、何を憂いていらっしゃるの?。」 「おまえは、災厄の神子の情報をつかんでいるか?。」  二人が王室の大きなソファーに座ると、侍従がすかさずお茶をいれ、静かに退室していった。 「ええ、中の国に現れた災厄の神子は、早くも四人の王子に取り入ったとか。その中でも平和のためにいち早く番契約を申し出た猿族は神子の不興を買って、力の付与もされず瀕死の大怪我をさせられたと聞きましたわ。あそこの王妃は、可愛い王子に怪我を追わせた災厄の神子に報復をすると息巻いているそうですね。」 「ああ、その神子の年齢がな、17歳と分かったんだよ。」 「まあ…。それは…。」  王妃は絶句してし、王は深いため息をうつ。 「さっさと番をつければ、簡単なことだったんだがな。17ではさすがに番契約は絶望的だ。あと数十年も、誰彼構わず力を付与した暁には、良からぬことを企む輩も現れるであろうし、悪用されれば国を巻き込む争いが生じる。せめて神子自身が賢明で慎み深い人物なら良かったが、中の国での情報を聞けば聞くほど期待できそうにない。  災厄が最小限に抑えられている今のうちに、神子を屠らねばならないようだ。桜の宮様が黙っていないだろうがな。」  王はそう言いながら出されていた紅茶で口のなかを湿らせ、王妃も続いて一口含んだ。  侍従のいれてくれる紅茶は、いつも王達の好みに合わせてあり、その疲れを癒してくれる。しかし、今はその効果も発揮されず、三年前の桜の宮様にまつわる一騒動を思い出さずにはいられない王と王妃には渋みすら感じてしまう。 「魅了された王子達は国を出てしまったとか。災厄の神子は能力の高い番候補者の王子達をつれて、何をしようとしているのかしら。」  カップの表面の微かな揺らぎを見つめながら呟く王妃。  ココンと小さくノック音がし、宰相部の役人が時を告げに来たことで、王も王妃も憂いをぬぐいきれないまま、次の執務へと思考を切り替え、腰をあげた。

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