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第1話 月の砂漠

 俺は今、途方にくれている。  ちょっと前まで、俺は見渡す限りの木、木、木の森林を銀様と走っていたのに、今は見渡す限りの、砂、砂、砂。いや、ここは緑の草木もあって、小さい湖もある。でも、ここから少し離れたところは、砂、砂、砂。俺の見える範囲は砂丘が折り重なっていて、こんな状況でなければ「月の砂漠」を鼻歌混じりに散歩したいと、思うかも知れない。  でも、今は死に直結していると心が警鐘をならしているので、そんな気にはなれない。  ここは砂漠の中にポツンとある、小さなオアシスみたいなところなんだと思う。見る限り民家もなくて人の気配もしない。ついでに生き物の気配もない。  こんなところ、三日もいたら絶対餓死する、干からびる。じっとしていても汗が吹き出るし、日差しもきついんだ。  おかしい。何で俺はここにいるんだろうか。  母さんと坂又さんに別れを告げ、銀様と霊峰を下った。鬼族のアッシュに勧められて、鬼族の国のグリアと言う港町から船に乗り、南の国に渡る手筈だった。グリア港にはグリアギルドって言う大きな冒険者ギルドがあるそうで、俺はそこで冒険者として登録する予定だったんだ。  霊峰を出たとたん、魔物に襲われたけれど、銀様が撃退してくれて、途中追い付いてきたアッシュと鳥族のツヴァイルが加勢してくれて、俺たちの旅は順調だった。  この森を抜けたらグリアに着く、いよいよ異世界の街を見られるぞって楽しみにしていたのに、木の根元に光るものが落ちていて、石?と思って拾ったら、眩しいくらいの光が溢れ、思わず目を瞑って…。  目を開けたら俺はここに立っていた。  念話も繋がらないし、俺、長袖のインナー、タイツ、Tシャツ、ハーフパンツとバックパックと言う、思いっきり軽装なんだよ。  多少の水と携帯食料があるくらい。とても心もとない…。  お、思い出すんだ、俺!。  この世界に来たばかりの時も、1人で対処しようとしたし、頑張れたじゃないか。  そうさ、さ、寂しくなんかないさ。俺は大人の男だ。  きっと銀様も俺を探してくれている。  まずは自分のできることをしよう!。  ここが別の異世界だったなんて、また転移してしまったなんて、そんなこと絶対ない。絶対ないから。泣くな俺。  そのうち銀様なレオが、絶対俺を見つけてくれる。  そのためにも、俺はこの砂丘を抜けて、人のいる場所へたどり着かなきゃ。  よ、よーし、目標が決まったら実行だ!。  あの時だって、とりあえずルート決めて、探索したじゃないか。  時計は15時を過ぎたところ。今も焼き付くような暑さだけれど、これ以上暑くなることはないだろう。今日はこのままここで野宿して、明日の早朝に移動をしよう。  俺はとりあえず銀様の魔法でアイテムボックスになっているサイドポケットからマントを出すと、インナーを脱いで、マントを被り、暑さをしのぐことにした。  木陰に身を潜め、太陽の熱から身を守る。じっと座っているだけなのに、汗が流れる。  * * *  ピピ、ピピ、と、アラーム音がし、目が覚めた。いつの間にか寝てたんだな。窮屈な姿勢で寝ていたから、身体が痛い。時計は17時。  日も傾き、暑さも和らいでいる。  よし、今のうちに、少し周囲を見ておこう。  俺は身体をほぐしがてらストレッチをして、近くの砂丘に上ってみることにした。  もしかしたら、街がすぐ近くにあるかもしれない。  期待を胸に、俺は走った。  でも、砂に足を取られて走りにくいし、思ったより砂丘は遠く、しかも大きい。それに、俺は砂丘って砂浜なイメージだったんだけれど、実際の砂漠は、石や岩の欠片みたいな物がゴロゴロしていているんだね。これはこれで走りにくい。  これはオアシスに戻る頃には暗くなってしまいそうだ。  やっとの思いで駆けのぼり、そこで見た風景は、やっぱり砂、砂、砂と石。  良いさ、明日は反対側ルートを探索しよう。大丈夫、まだ絶望的じゃない。  俺が心に言い聞かせながらオアシスに戻って来た頃には、予想通り夕闇が迫ってきていた。  気温も下がり、日除けに被っていたマントが心地よく感じる。 「✕✕✕✕✕!」  突然誰かが叫び、俺は背後から襲われた。両脇に腕を入れられ、羽交い締めの状態で持ち上げられる。  くそ!。だから、何でみんなそんなにでかいんだよっ。  俺は雄吾から、ほぼ無理矢理教えられた護身術(だって、普通男は必要ないだろう?。)の心得があるから、両手を上にして、羽交い締めから抜け出すことに成功して、すかさず走る。 「✕✕、✕✕✕!」 「✕✕✕✕✕✕✕✕!」  しまった、他にも人がいるのか?。  と、思ったときには、俺の前にナイフや刀を構えた三人が現れて俺の行く手を塞ぐ。やっぱりここはアースの世界だよな?。この人たちの服装がいかにも砂漠の盗賊ですと言う雰囲気を醸し出している。  後ろから近づくのは二人。  俺が迷わず横に進路を取って駆け出したところに、横から肩を押され仰向けに倒されてしまった。  俺はすかさず馬乗りに取り押さえてくる相手の脛を蹴り飛ばして、逃げを打った。 「✕✕✕✕!。✕✕✕!。✕✕✕✕✕!。」  なに言っているのか分からないけれど、逃げるが勝ちだ。  無我夢中で走っていると、馬のいななきがして、一人が馬に乗って追いかけてきた。  馬は反則だろう。  俺は剣で脅され、あっけなく捕まり、縄をかけられてしまった。  しかもよく見れば、馬かと思ったのはどう見てもラクダみたいだし。ラクダって、ヒヒーンって鳴くのか?。

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