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第2話 砂漠の盗賊団(仮)
俺は首輪をはめられ、犬のように首輪に取り付けられたロープは木に繋がれてしまっている。両手両足もそれぞれひとまとめに縛られて逃げることができない。
近くには、ヒヒンと鳴くラクダもどきも木に繋がれていてさ。俺はラクダ扱いか。
俺を捕まえた盗賊団かもしれない連中の仲間は15人もいた。火を囲んで丸くなり、野営をしている。
もうすっかり夜になり、日中あんなに暑かったのに、今は肌寒く、俺はマントに身を包んでいても寒さに震えてしまう。インナーを脱がなければよかった…。
時々ターバンで顔を隠した盗賊さん(仮)が飲み物や食べ物を運んできてくれる。
今も相当酔っているだろう盗賊さんが、ふらふらとした足取りで、こちらに飲み物をもって近づいてきた。
「✕✕✕✕?。✕✕✕✕?。」
何か話しかけてくるんだけれど、言葉が分からないんだよなぁ。
俺はふるふると頭を左右に振る。
「✕✕、✕✕✕✕、✕✕。」
その盗賊さんは俺の手のロープを掴んで俺を立ち上がらせると、俺の身体を触ってきた。
「嫌だ!触るな。やめてくださいっ。」
俺は盗賊さん…こんな奴「盗賊の奴」で上等だっ。の、手から逃れようと抵抗をする。
盗賊の奴が、俺の手のロープを片腕だけで持ち上げるので、俺はぶら下がるしかない。くそー、みんなでかくて力がありすぎた。
だからといって、俺が抵抗しないはずがない。
盗賊の奴が俺の首を掴もうとして手を伸ばしてくるので、足を動かしてバランスを崩してやる。
頑張れ俺の腹筋っ。
不意に後ろから、俺の首輪に力がかかり、驚いて動きを止めた隙を付かれて、俺の口になにか臭い液体の入ったカップを押し付けられた。
アルコール臭がする。酒か?
俺が飲まないように頭を動かして抵抗しようとすると頭を押さえつけてカップを無理矢理傾けてくる。
鼻も口も液体に沈み、苦しさから口を開けると、液体が大量に喉の奥に流れてきてしまった。
俺は咳き込みながら、液体を吐き出そうとするけれど、幾分かは飲まされてしまった。
キツい酔いが頭のなかを揺らす。視界が歪む。
「✕✕、✕✕✕!」
「✕✕✕✕✕✕✕✕!」
盗賊の奴たちが何か言っているけれど、聞き取れない。
俺は砂地に転がされ、その上に盗賊その一がのしかかってきた。盗賊その二は俺の両手を頭のうえに固定すると自分の体重をのせてきて、両肩を抑える。
ヤバい、抵抗ができない。
「やめろっ。」
盗賊その一が俺のTシャツをたくしあげ、俺のおなかを触る。
「✕✕、✕✕✕。」
「✕✕✕✕✕✕、✕✕。」
「嫌だっ。やめろっ。やめてっ。」
盗賊その一は俺のおなかを触って、俺の乳首もいじり始めた。
何でみんなそんなに男の乳首を触りたがるんだ。面白くも何ともないだろうがっ。
こんな変態盗賊に遠慮はいらないっ。
俺は、身体の中の魔力を練る。レオに教えてもらったばかりで、まだコントロールが上手くいかないから、魔法は最小限にしろって言われていたけれど、手加減なんてしていられない。
「✕✕✕✕✕✕✕✕!」
俺が魔法を発動しようとした時、別の大柄な体格の盗賊さんが怒鳴った。盗賊その一とその二はあわてて俺から離れる。
「✕✕!。✕✕✕!。✕✕!。✕✕✕✕✕✕!。」
二人に何か言っているこの大柄な人も、ターバンで顔を隠していて、目しか見えていないから年齢も不詳だけれどリーダー格なのだろう。声から想像するとレオくらいのお兄さんかな?とも思う。
俺が転がされたまま、ぼんやりと眺めていると、もう一人、リーダー格のお兄さん(仮)に近づく人影が見えた。その人もターバンですっぽりと身を包んでいるので、年齢も性別も不詳だ。この人は小柄に見える。女の子かな?。
盗賊その一とその二達がペコペコ頭を下げながら行ってしまうと、半分剥かれて転がっていた俺のところに小柄な方が近づいてきた。
そいつが俺を見下ろす。
俺は目を合わせながらも、服を直した。焚き火の明かりは遠く、顔の判別ができないし、ましてやターバンでほとんど隠れていて、よく見えないけれど、さっきの盗賊の奴達とは全然雰囲気が違う。
小柄な子(仮)の後ろに立ったリーダー格のお兄さんもそうだけど、どちらかと言うと、レオやアッシュ達の雰囲気に似ている。
「✕✕、✕✕✕。」
「✕✕✕✕✕✕✕✕。」
二人は俺になにか言うと、リーダー格の方が俺に手をかざす。すると、俺の周りがほのかに輝き暖かな風に包まれた。それは一瞬で、酒と砂で汚れたTシャツもなんだかきれいに乾き、ロープに擦れた手首も痛みがなくなった。
浄化?洗濯?みたいな魔法なのだろうか。
呆けて見ている俺に、厚手の毛布をばさりと被せると、二人は焚き火の方へと行ってしまった。
俺はその清潔そうな毛布に身をくるみ、酔ったあたまではこれ以上考えることもままならず、眠ることにした。
* * *
「て、てぅ、おーら。」
「✕✕✕。」
「いってーっ、すぐそうやって叩くの反対っ。」
今、俺をバシッと叩いたのは、この前俺を酔った勢いで酒を飲ませに来た盗賊その一だ。
あれから7日。俺は、この盗賊団(仮)に囚われたまま、ラクダもどきに乗せられて旅をしていた。
あの翌朝、俺に謝ってきた盗賊その一とその二の顔は青アザがあり、その後、俺のお世話係にさせられているのか、ご飯を持ってきてくれたり、ラクダもどきに乗せてくれたり、ちょっと親切にしてくれるんだ。
俺もさ、ずっと乗ってるだけだし、自己紹介してみたら、盗賊さん達も名前を教えてくれるんだけど、発音が難しいんだよな。
で、間違えると、バシッと頭や背中を叩かれるペナルティーつきになった。
因みに盗賊その一はレクソンさんで、その二はデクトさん。二人の名前が言えるようになったら、他の盗賊さん達も面白がって、名前を教えてくれたり、物の名前などレクチャーしたりしてくれるんだ。
物の名前はとにかく、人の名前教えちゃって良いのか?。
「カーリー、✕✕✕。」
ずるいよなー。俺の名前だって言えてないじゃんって、俺が言っても、はははって笑ってスルーだし。
この盗賊団(仮)の人達、ずっと西に向かって走っている。
リーダー格のお兄さんは、あの小柄の人をラクダもどきに乗せて、いつも一緒にいるんだ。
ちなみに、ラクダもどきの名前はケーモルだって。
魔物が現れると、フォーメーションを組んで武力と魔法で対処している。盗賊さんたちの身体能力は俺の素人目にもずば抜けて見えていて、ツヴァイルやアッシュと大差ないような気がする。他の人に会ったことがないから比べようもないのだけれど。この世界の人達はみんな超人なのかな?。
攻撃魔法を使えるのは、リーダー格のお兄さんとあと一人。その他の人たちは武器を操る。
レオ達が普通に魔法を使っていたから、この世界は魔法が主流なのかと思ったけれど、攻撃魔法を使える人はもしかしたら、少数派なのかもしれない。
「カイリー、✕✕✕、テ、✕✕✕、ロープ、✕✕。」
レクソンさんがなにか話しかけてくる。
「あー。手のロープなくしてくれるのかな?。それだと嬉しいな。」
俺はTシャツやハーフパンツから、盗賊さんと同じような服装に着替えさせられていて、脱いだ服とバックパックはリーダー格のお兄さんに持ってかれてしまっていた。
逃走避けなのか、首輪のロープと両手首のロープは必ず誰かに握られていて、生活するのにちょっと不便だ。
「ポトフ、つくる。ほし肉、いも、にる。楽しむ、みね。」
そう、俺は今、この盗賊団(仮)でキャンプ飯を作っているのだった。
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