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第3話 ご飯係
なぜ俺がおかずを作るのかと言えば、ここのご飯、美味しくないのだ。
俺の楽しみはご飯しかない。最初は、知らない人からむやみに食べ物をもらっちゃダメだって言う蒼士の言いつけを守って警戒していた俺だったけれど、この盗賊団(仮)が、そんなに悪い人達ではないと思うようになって…。決しておなかがすいたからと言う理由だけではないっ。ちょっと食べたら、味が無いんだよね…。
盗賊団(仮)のクセに何でキャンプ飯が下手なんだよ。鳥族のところで食べたご飯は美味しかったから、アースの世界全体の味覚がおかしいわけではないと思う。
俺は、母子家庭で育ってきたから、料理は一通りできるし、雄吾や蒼士達と一緒にキャンプに行くと、キャンプ飯はもちろんのこと、サバイバル的な食事の調達もすることが多かったから、ある程度なら身に付いているんだよな。
だから、俺が作りたいってジェスチャーで伝えたところ、却下。 まぁ、そうだよね。
で、手は出せないけれど調味料とか身振り手振りで口出ししたら美味しく作れて、昨日からは俺にメニューを決めさせてくれたり手伝わせてくれるようになったんだ。
その時だけ、手のロープを取ってくれる。
鳥族でも感じたけれど、盗賊団(仮)さん達の危機管理も大概で、獣人達の性格なのかも…?。
干し肉だけでなくて、その日に狩った獣だったり爬虫類(涙)だったり、肉は様々。俺の食べたことの無い食材の時は、味も調理の仕方も分からないから、盗賊さんの味付け。次からは俺って感じ。
おかげで爬虫類のさばき方をマスターしそうだよ、俺。
俺がじゃが芋もどきを剥いていると、例の小柄な人が近づいてきた。俺がナイフを持っているときに近づいてくるのは珍しい。
「こ、こぉん、にち、ら?。」
とりあえず俺は挨拶してみた。
「こんにちは。
カーリー、ご飯✕✕、✕✕✕✕、ありがとう。」
おお、珍しく話しかけてくるぞ。
ターバンにすっぽりと身を隠して、目しか見えないけれど、なんとなく俺より年下かな?。やっぱり女の子かな?。
「いやいや、お礼を言われるほどでは。俺の名前はカイリだよ。か、い、り。」
小柄の子は、大きな瞳をパチパチさせて、「カイリー、カエリ」とか、呟いている。可愛いなぁ。
「カイリー、ぼく、ユウ、よろしくね。」
おおう、よろしく言われちゃったよ。しかも、ぼくって「僕」だよな?。残念男の子かぁ、いやいやワンチャン僕っ娘かもしれない。だからなにってことはないんだけどね。女の子でも男の子でも可愛いものは可愛い。俺より背が低いってところがまず可愛い。ウンウン。
「うーぅ、れうー、ユーぅ、エう。」
俺も練習しながら、じゃが芋を剥く。
ん?。周りの盗賊さん達の顔がひきつっているぞ?。
「ユウ、僕✕✕✕、作る、✕✕。いい?。」
おお、ユウ君も手伝いたいのか。偉いぞ。
「良い。ご一緒、作る。ろう。」
俺は、ユウ君の緊張をほぐす意味でもにこっと微笑んで返事をした。ユウ君は俺の隣にちょこんと座り、じゃが芋の剥き方をながめ始めた。
俺は自分の持っているナイフを渡すと、ユウ君がナイフを持つ。
「ちょ、ちょ、もつ、かたち。ダメ。ダメ。」
ユウ君の持ち方があまりにもひどい。これでは怪我をしてしまいそうだ。
俺は背後に回って、ユウ君のナイフの持ち方をレクチャーする。
「んー難しいなぁ。」
ん?。今、普通に声が聞こえたぞ?
と、思ったとき、俺の体が宙に浮いた。
え?。
と、思った時には俺は壁に激突…は、してなくて、レクソンさんが俺とともにぶっ飛んでレクソンさんの背中が壁に激突していた。
俺を庇ってくれたのか?
俺の前に影ができて、背中を向けて仁王立ちした別の盗賊さんが風を受けて膝を付いた。血の臭いがただよう。デクトさんだ。
「「やめて!。」」
俺の声とユウ君の声が重なる。
「やめて、ユージーン。カイリは僕にナイフの持ち方を教えてくれただけだよ。
酷いことしないでっ。」
ユウ君が、必死にリーダー格の人の腕にすがりついて、俺たちを庇ってくれていた。
ユージーンと呼ばれたお兄さんは無言でユウ君を肩に担ぎ上げると、俺たちを睨み付け、自分達のテントに行ってしまった。
何だったんだ?、何が起きたんだ?。
「うぅ。」
「ぐぅ。」
はっ、お、おじさん達っ。
「ごめんね。ごめんね!。かたじけなる。おじさま、おじさま!、だいじょうぶでございむすか?」
俺は教わった単語を叫びながらおじさん達の怪我の具合を見ようと駆け寄った。
「おじさま、おじさま!」
「✕✕✕、良い。良い。✕✕✕✕。」
他の盗賊のおじさん達が来て、俺の頭をポンポンしながら、声をかけてくれる。
いや、俺より、おじさん達を看てあげて。
背中を打ったレクソンさんは、衝撃で息が上手く吸えていないし、風を受けたデクトさんは傷だらけだよ。
* * *
その後、ユウ君達は丸一日テントから出てこなくて、俺達は一日ここで野営したままだった。
ユージーンさんが出てきた時は、俺も盗賊のおじさん達も緊張してしまったけれど、あの時の怖い雰囲気は成りを潜め、おじさん達に指示を出していた。
俺がユウ君の姿を見たのは、更にもう一日たってからだったけどね。ユージーンさんが、自分のマントの中にすっぽりとユウ君を包んで、外に出さないんだよ。
俺は思わず熱中症を心配してしまった。
その後、また、ユウ君は俺に料理を教わりに来て、その背後にはいつもユージーンさんがくっついているのは、何とかして欲しいと心のなかで思ってしまうのは仕方がないと思うんだ。
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