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喧嘩_1
『本編から数年後のお話です』
喧嘩をした。
同棲して……番になって初めての喧嘩。
俺は怒りと言うよりも美影に信じてもらえない悔しさで、最後には堪えていた涙がポツリと落ちた。
「俺は……っ、俺はずっと、美影だけだもん……っ」
一度流れた涙は止めどなく溢れて、もう自分でも止め方が分からない。
「俺が言ってるのはそういう事じゃなくて――」
ほら、また……信じてくれない。どうして分かってもらえないんだと、目元に向かって伸ばされ掛けた手から思いっきり顔を背けた。
「美影、だけだもん…………っ!」
「…………………」
言葉の代わりに返ってきた溜息。向かい合っていた美影はくるりと身を翻し、その足取りは玄関へと向かっていってしまう。
慌てて追いかけた背中は振り向いてはくれない。
「み、美影どこ行――」
「…………頭冷やしてくる」
「で、も……こんな夜中……」
時刻は日付を跨ごうとしてる。
「……もう風呂入って寝ろ。それからこの土日は家から出るなよ、いいな?」
「み、美影、待っ――」
音を立てて閉じたドアが俺の言葉を遮った。
美影の姿を飲み込んだ扉は二度と開かないような気がして、途端にまた涙が溢れた。
「うっ…………なんで、……美影…………っ」
喧嘩なんてしたくないのに。
なんで、俺には……美影だけだからって……伝えたいだけなのに……。
「うぅ……っ……やだ、帰ってきて……美影……っ……」
名前を呼んでも返ってこない。帰ってこない。
結局俺は泣き腫らした目と共に一人ぼっちで休日の朝を迎えた。
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