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喧嘩_3

部屋の中へ二人を招き入れ、千歌ちゃんからは白い小さな箱を手渡される。 「浅井くんここのケーキ好きでしょ?お土産!」 「買ったの俺だけど」 「選んだのは私だもん!」 そんなやり取りを見ていたら何だか肩の力が抜けて、少しだけ気持ちが落ち着いたように思う。 「ありがと、温かい飲み物淹れるよ。千歌ちゃんは珈琲より紅茶がいいかな?」 「うん!」 「臣海は?」 臣海からは珈琲がいいとリクエストを受けて、俺はキッチンへ。その後を臣海もついて来て、手伝ってくれると言う。 「ありがと。ドリップ珈琲そこの引き出しに入ってるから」 「んー…………あった」 キッチンに並んで立って気付いた事が一つ。 「…………臣海、身長伸びた?」 「まーね、もう少しで兄さんに追い付くよ」 確かにもう殆ど美影と変わらない。 「良い男になった?」 「うん、なった」 「じゃあ兄さんじゃなくて、俺に乗り換えてみる?」 「やだ」 臣海は確かに良い男だと思うし好きだけど、それはあくまで義弟として。俺がそういう意味で好きなのは美影だけ。 「臣海兄さん、振られちゃったね」 「うるさいよ」 いつの間にかキッチンに入ってきていた千歌ちゃんが、楽しそうに俺の首元に腕を回して背中へと負ぶさる。 「へへ!私もっと大人の女性になって浅井くんの事惑わしちゃうから、待っててね」 「千歌ちゃんは今のままで十分可愛いし、魅力的だと思うけど」 「浅井くん……好き!」 「ありがと。はい、紅茶」 「わーい!早く皆でケーキ食べよ!」 キッチンから出ていく背中を追い掛ける後ろで「千歌には甘いんだから」って聞こえた臣海の拗ねた声が美影にそっくりで、俺は思わず振り返った。 「え、何……?」 「…………いや、何でもない」 「…………ほら、ケーキ食べるんだろ?」 「うん……」

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