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喧嘩_4

リビングでは既に千歌ちゃんがケーキを皿に取り分けていて、座った俺の目の前にはショートケーキが一つ。 「浅井くんはショートケーキが良いかなって」 「うん、一番好き」 千歌ちゃんはチョコケーキ、臣海はモンブランの乗った皿をそれぞれ手に取る。二人が食べ始めたのを見て、俺もフォークを口へと運んだ。 美味しい。いつもの大好きな味。 でも、何か足りない。 「……美味しくない?」 千歌ちゃんの言葉には笑顔でそんな事無いと返す。 「美味しいよ、すごく」 「…………で?」 「え?」 「何で兄さんと喧嘩したの?」 臣海を叱咤するように「臣海兄さん!」と千歌ちゃんの声が響いた。 「…………知ってたんだ」 「そりゃあんな剣幕で夜中に帰って来られちゃね」 そっか、美影実家帰ってたのか。そうだよな、あんな夜中だったし。そりゃそうだよな……。 「で、何で喧嘩したわけ?」 「…………会社の後輩に、告白されて……そしたらちょうどその場に美影が居合わせちゃって……」 「何でまたそんな所に兄さんが……」 「マ、マンションの目の前だったから……」 美影は自分でよく独占欲が強いって言う。だからもしかしたら嫉妬させてしまったのかなって思って、俺には美影だけって言ったんだ。 でも美影はそう言う事じゃないって……それから、言い合いになって……。 「マンションってこの家?」 「え、うん……」 「その後輩に送ってもらったの?」 「いやそこまで仲良くしてないし、買い物して帰ってきたらマンションの前で待ってて、それで……」 「相手って男?それもβの」 「うん、そうだけど……」 「…………ああ、なるほど」 「?」 少しの思案のあと臣海は一人心地に納得して頷きを見せる。 「アンタって本当危機感ないんだね。そこはちょっと兄さんに同情する」 「でもそこが浅井くんの可愛いとこの一つだよね」 千歌ちゃんまでも俺を置いてきぼりにして、二人は肩を竦め合った。

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