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喧嘩_6

口を噤んだ俺に追い打ちを掛けるよう「兄さん呆れてんじゃない?」と臣海は続けた。 抑えていた心細さが急に戻ってきて、目頭が熱くなる。 「あ!ほら、臣海兄さんが意地悪言うから浅井くん泣きそうになってる!」 「意地悪じゃないし、俺は事実を言ってるだけ」 「もう!浅井くん、大丈夫だよ。例え美影兄さんが離れちゃっても私が居るからね!一人じゃないよ!」 千歌ちゃんは俺の左手を握ってそう言ってくれるけど、それ全然慰めになってない……。 「何言ってんの?兄さんに捨てられたら次は俺が拾ってあげるって約束してるから。千歌の出番はないよ」 空いていた右手は臣海に掴まれて、だけど臣海のだって全然慰めになってない。 「うっ………嫌だ、おれ美影がいい……もん……」 例え臣海や千歌ちゃんでもダメなんだ。 「うぅ……っ……」 「――お前ら、何泣かしてんの?」 堪えきれずホロリと涙が落ちたのと同時に、耳には待ち人の声。 「み、美影…………」 玄関からリビングへ続くドアの前にはいつの間にか美影の姿があった。 「宗一の事泣かせる為にお前ら呼んだ訳じゃないぞ」 「べっつにー、泣かせたかった訳じゃないし。大体兄さんが悪いんだよ。何の説明もなしに放ったらかしにしてさ」 臣海に便乗して千歌ちゃんも「そーだ!そーだ!」と抗議しているけど、今の俺にとっては全て鉄砲耳だった。 美影がいる。帰って来てくれた……ちゃんと、帰って来てくれた。 「それはまあ……俺もちょっと冷静じゃなかったし言葉足らずだったと反省はしてるけど。何もお前らまで焚き付けなくてもいいだろ」 「甘いな、兄さん。言っておくけど俺と千歌は兄さんの味方じゃなくてライバルだからね。こんな喧嘩なんて絶好のチャンスなんだよ」 「ったく……我が弟ながらなんて奴。…………宗一、ごめんな?ほら、こっちにおいで」

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