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第2話

(…… まさか?)  遠い記憶のあの子に似てると思った。  濡れたように艶のある黒髪と漆黒の瞳。 だけど俺の知っているやつとは違い、その目元はくっきりとした切れ長が印象的。 ちょっとクールビューティってやつ? 「何? 僕の顔に何かついてる?」  男にしては高いトーンの声。 「あ、いや、知り合いに似ている気がしたから……」 「ふーん」 (あっ、今こいつ、鼻で笑いやがった) 「言っとくけど、別に気を引こうとして言ったわけじゃないぞ。 本当に似てたんだ」  だけど絶対に違う。 アイツは俺と同い年で……もう25歳のはず。 コイツはもっと若く見える。 それにアイツはこんなに生意気なヤツじゃなかった。 「俺、克臣(かつおみ)っていうんだ。 お前は? 名前教えてくれる?」 「…… 雪斗(ゆきと)」  雪斗……か。 ほらな、名前だって違う。 まあ、こんな出逢い方で、それが本名かどうかも分からないけど。 「なあ、お前、未成年じゃないだろな?」 「22歳」 「マジ? 大学生?」 「そう」  服装を見ても、ごくごく普通の大学生と言えばそう見える……か。 「貴方はサラリーマンってやつ?」 「ん、まあそうだよ」  仕事帰りだからスーツ姿の俺。 コイツから見たらオジサンに見えるんだろうな。 なんて思いながら苦笑した。 「ねえ、その僕に似てるって人、名前なんて言うの?」 「え? ……ああ、確か千春(ちはる)って言ったっけな」 「何それ、あんまり覚えてないの?」 「ああ、何しろ最後に会ったのは幼稚園の時だからな」  俺がそう言うと、雪斗はクスクスとおかしそうに笑った。 まあ、笑うよな、普通。 「ねえ、その人のこと教えてよ」  なんだ? ちょっと甘えるようなその声音。 さっきまでツンツンしてたくせに、急に興味でも湧いてきたのか? 「いいけど…… そんな面白い話じゃないよ」  なんせ、幼稚園の年長の頃の話だからな……。

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