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第3話

 * 「大人になったら、俺と結婚してくれる? ちーちゃん」 「…… うん? いいよ、かっちゃん」  俺の言葉を、その時千春がちゃんと理解したかどうかは分からない。 不思議そうに首を傾げたけど、すぐにいいよと言ってくれたから、俺はすごく嬉しかったんだ。 「じゃあ、これやる」  傷が付かないように大切にハンカチに包んだ物を、俺は幼稚園の制服のズボンのポケットから取り出した。  「これ、なぁに?」 「これはな、結婚指輪ってやつ」  そう言って、俺は得意げに四つ折りにたたんだハンカチをゆっくりと開いて見せた。 その途端、太陽の光に反射して、銀色のそれはキラキラ光る。 「うわ、キレイ。 でも、これどうしたの?」 「うーんとな、落ちてた」  思わずそう言ったけど嘘じゃない。 両親の寝室の隅に落ちてたんだ。  俺はそれを、千春の左手をそっと持ち上げて薬指にはめてやる。  だけど千春のちっさい指に、その指輪はブカブカで。  千春の残念そうな顔に、俺も悲しくなっちまう。 「大丈夫だ。 これはな、約束の指輪だから、ちーちゃんが大きくなって、この指輪がちょうどよくなる頃に、俺が迎えに行ってやる」 「うん?」  また不思議そうに千春は応えた。 だけどニコッと笑ってくれたその顔が天使みたいで、俺は大人になったら絶対こいつと結婚するんだって、思ったんだ。  だけどそれから数日後、千春の家はどこか遠くに引っ越ししてしまって、幼稚園にも来なくなってしまった。

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