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第4話
*
「ま、それだけの話」
「で? 大人になって迎えに行ったの?」
「まさか、だって男同士で結婚できるわけないだろ? ついさっきまで俺もすっかり忘れていたし」
俺は、声に出して笑って、水割りを飲み干した。
雪斗はそれ以上何も訊いてこなくて、カラン…… と、グラスの中で氷のぶつかる音がやけに大きく辺りに響く。
千春の父親は転勤族だって聞いた事がある。 あの幼稚園にだって、年長の半年くらいしかいなかったし、今どこに住んでいるのかもわからない。
それにその頃は男同士でだって結婚できるって何故だか信じてたけど、それは出来ない事なんだって俺が理解するのにも、それからそう時間はかからなかった。
だから、きっと千春もそんな約束、とうの昔に忘れてる。
男同士は結婚できない。 だからこそ束縛される事なく自由でいられる。 今ではそれが理想の生き方だと思ってる。
その時、もう殆どなくなってしまっていたオレンジ色のカクテルを、雪斗がズズッとストローで吸い上げる音がした。
「ところで、それ何? まさかオレンジジュース?」
「ファジー・ネーブル」
「ふうん」
なんだそれ、ジュースじゃねえの? と、思いながら「おかわりする?」と、訊けば、雪斗は「もういらない」と言って、ちらりと俺に流し目を送り、そっと静かに視線を外す。
「じゃ、場所変える?」
質問を変えれば、うんと声に出さずに頷いて、伏せた睫毛がゆっくりと上がり、またチラリと視線を投げかけてくる。
その黒い瞳は、見た目の幼さを忘れるくらい、妖艶に俺を誘っていた。
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