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第3話
そして、やっと、コトに及ぶ。
「うん、ぁっ……、あふぅ、そこ、いい、いい」
「きもちいい?」
「う、ん……ひぁっ」
はじめはいつも四つん這いになって尻を突き上げて、太腿をおしひろげられる。小暗い割線のすぼまりがあらわになり、しげみを撫でられた。はけ口を見つけるように片手で俺の後孔をくじりはじめ、空いた手で剛直を甘美にしごいてくる。両刀つかいもいいところだ。あ、こいつ、童貞じゃないなと思った。が、恥ずかしさでどうでもよくなった。
「そんなに枕に突っ伏していると、息ができないよ。こっちをみて」
「い、ぁ……、やだよ。恥ずかしい」
「痛くしないから、大丈夫」
なにが、大丈夫なんだ。クスクス笑うな。いつも大丈夫って聞くけど、全然大丈夫じゃない。おたがいすっ裸で、やることは決まっているんだ。オメガだったらヒートなんだと、快感におかされた思考をごまかせたかもしれない。
「こんなっ……、恥ずかしい。自分でやったし……」
「そういっても、まだきゅうって締まってるよ? 一緒にお風呂でしようっていったのに全然許してくれないよね」
ちょっと拗ねた声をだすな。
俺はオメガみたく濡れないんだよ。粘膜を保護するアルカリ性の腸液しかでなくて、申し訳ありませんね。なんて、言えるわけがない。真っ赤になりながら枕に突っ伏して愛撫に耐えた。
貴宏はくすんだ部分の皺を一本一本のばして、たっぷりのローションで感覚がなくなるぐらいほぐしてくれる。乳白色の液体が太腿をつたって、ベッドのシーツをしとどなく濡らす。指すらも締めつけてしまい、恥ずかしさで消えたくなった。
「あっ、あっ、い、いきそう……」
「まだはやいよ。でも、すごいひくひくしてる。生き物みたいでかわいい」
実況やめろ、と、なんども胸のなかで毒つく。が、弓なりに反った体はがくがくと弾んでしまう。
「はぁ……っ、あっ……、あっ、ん……」
「ここ、どう?」
人差し指と中指とで、中をすりつぶすようにこすっていく。
「あっ……、あっ、あっ、そこ、も……、だめっ……」
入口から中指の関節の節が通り抜けると、ツンツンと、その先を指で突かれた。そのたびに、身体が反応して辱めを受けている意識が芽生えてしまう。それはゆっくりと、そしてやさしい指遣いだった。
「いきそう? 前立腺って、きもちいいってきいたけど一回出したほうがいいかな? 大丈夫?」
「き、ひぁっ、きもち、……ぁいいっ。……だ、だいじょおあ、ぶ……んんっ」
つつかれるたびに、灼熱した鉛の液体が息子から噴射した。それでも、だらだらと淫汁がたれ流される。
もどかしくて、さわろうと伸ばすと手首をつかまれた。
「だめだよ。ここは僕がさわってあげるでしょ。それとも乳首のほうがいい? やめる?」
その疑問形もやめろ。決まりかねている答えを引き出すな。
「や、だっ、……んっ」
せり上がってくる、びりびりとした快感が、こわくて、またぎゅうっと枕にしがみついてしまう。ふるふると頭を横に振って、かすれる声と吐息が洩れた。やめて欲しいのに、入口の先をしつこくツンツンとされて、なんども昇りつめてしまいそうになった。
「かわいい。多田村がこんなにかわいいの、僕しか知らないんだよね?」
「はぁっ、あっ、あ、ァッ、……きむらぁ、んっ、そこ、しつこい」
「たかひろって名前でよんでって言ったよね。わかる?」
ぜんぶ、疑問形やめろ。しつこい。
「や、だよ。あっ、そこ、だめだめだめ、いく、いっちゃうっ」
「いかせない。まだなかにいれてもらってないよ?」
貴宏はくるりと身体を向かい合わせ、俺を膝に座らせた。
「あ、なに……?」
「正常位は足がひらくのがむずかしいから、対面座位にしよう。自分でいれてくれる?」
「え……」
「大丈夫、ゆっくりでいいから。息を吐いて」
「んぅ……あ、ぁッ……」
俺は素直だ。
アルファのちんぽを独占できるのは、いましかない。本日はアルファのちんぽ独占禁止法を敷いたと思えばいい。
なんてことを冷静に言葉にできることもできず、俺はかわいいウサギのふりをして、こくりとちいさく頷いた。
そのときの自分を、横からバッドで殴りたい。
それでも、あまい行為は砂糖を溶かしたようにあまい。
窄まりが限界まで押しひらいて、ヌルッときばった亀頭が滑り込んでしまう。肉壁をひろげていく感覚がこわくて、逞しい腕に爪を立ててしがみついた。貴宏はちいさくほほ笑むと、ぺろりと胸の突起に舌を這わせた。瞬間、絶頂に達して、ぴゅうっと精液が飛び出てしまった。
「——……あああああああ!」
「あ、トコロテンだ。本物みたいでおもしろいね」
「……ばかっ、あっ、あぁ、……あ、あ、あ、ゆらすなあぁ……っ、ひぃあ……」
抽送を速められ、がくんがくんと狂おしく、全身が波立つように跳ねあがってしまう。そのまま一気に根元まで挿入し、熱い脈動に、もう一度イってしまう。
「傷つけないようにやさしくするね」
ペニスが肉壁をこすり、潤滑油のローションがぐちゅぐちゅとした淫猥な音がひびく。粘膜がひっぱられ、そのたびにゴツゴツと腹の奥が穿たれた。スキン一枚でさえおしくなるほど、貴宏の熱に酔いしれてしまう。ほてった肌と肌が重なるたびにきもちいい。長大な剛直が、硬い楔のように深々と突き埋められてしまい、下腹部を突き上げてくる。
「あぅ……、だめ、だめ、奥まで…きてる」
「本当? ねぇ、その顔をよくみせてよ」
「あっ、あっ……、だめ、ぅん、……いい、きも、ちいい。ひぃん、いいっ……」
はしたなく乱れた声とあまく蕩ける声。
「うん、腰をもっと沈められる?」
「えっ……」
ずんと尻をわしづかまれて、腰がさらに下に落ちて目からまばゆい星が散った。
「あ、あ、あー、あーっ……」
「ここ、ひらいていくと気持ちいいらしいよ」
耳もとを咬まれて、甘い声がささやいた。胎のいちばん奥までとどいている。汗が額から、手のひらからじわりと浮かぶ。そこはだめだ。きちゃだめだ。雁の部分で、ゆっくり、そしてじっくりと押しひらかれると、すべてがどうでもよくなってしまう。もう、この男しか受け入れたくない。俺は、哀願するような視線を送った。
「…………あっ、あ、あ、やだ、やだ、んっ……」
「イッてるんだね。かわいい。僕のものみたい」
哀切な思いと涙があふれて、急に寂しくなり、キスを求めた。分厚い唇をついばむように吸っては舐めた。なんども昇りつめて弾ける。もう、自分がだれなのかわからなくなった。
「熱い……、熱い……んっんっ……。あ。あ、……」
「僕なしじゃイケなくなるまで、気持ちよくなってよ。ただしが僕なしに生きていけなくなるまで抱いてあげる」
ちゅっと瞼にうかぶ涙を吸われる。
そう、そんな男だ。そんな奴だった。好きだった。
そして、会うたびに、へとへとになるまで、抱きつぶされた。激しく射液を迸らせたくせに、あいつの息子は天井をすぐに向いていて、もう一回戦……。なんて、繰り返しているうちに、次の日どこにもいけなくて、アルファの性欲はやべぇなとしか思ってなかった能天気な自分を殴りたい。
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