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ep.7
リビングのソファまで真柴を運ぶと、キイチはグラスに水を注いで真柴へ渡し、その前にしゃがんでその顔を覗くが二人の視線が合うことはなかった。
「送ってくれてありがとう」と、目線は合わせないくせに真柴は笑みを作ってやけに素直に礼を言った。
キイチはなんだかそれに違和感を覚えた。
「なんであんなとこで晩酌してたの。家で飲めばいいのに」
「未成年の子供にはわかんないよ」
「腹立つな、レイプされかけといてよく言うよ」
「──キイチはなんであそこにいたの?」
「えっ、いや、たまたま……」
──本当は夏目から日中の出来事を聞かされてマンションを訪ねたが留守だと分かり、なかなか帰って来ない真柴が心配であちこち探し回っていたのだ。
「──αにとってΩってなんだろね」
「え? 何って、番相手なんじゃないの?」
「そんなこと思ってないくせに……よく言うよ……」
「……なんか今日のアンタ変だよ。家にはちゃんと送り届けたし俺帰るよ。ちゃんとベッドに横になって寝なよ」
真柴の頭をくしゃくしゃとやるとキイチはソファの前から身体を起こそうとするが真柴にいきなり引っ張られてバランスを崩した。
背もたれに背中が沈んで突然真柴にキスされる。
その時、キイチの喉の中を水と何かが流れた──
「っ、……アンタ、今何っ……」
「あの女の子には優しくするの?」
儚げな笑顔で真柴はキイチの頬を撫でた。
一瞬気後れしたキイチのズボンの前をいきなり広げて、躊躇もなくキイチの雄を口に咥えた。
「ましっ……」
酒のせいか熱くなった真柴の口内が何度も何度も強く刺激してくる。キイチはあっという間にそこを固くした。真柴はその姿に愉悦の笑みを浮かべて甘く吐息を漏らしながら執拗に愛撫を続けた。
キイチの頭は異常な熱を持ち、心臓が過剰に早く刻みだす。さっき真柴が飲ませたものが牙を剥きはじめていることを全身で悟った──。
「真柴……アンタ、さっきの、あの……薬……」
苦しそうにキイチは奥歯を噛む。
キイチの雄から口を離して、その先走りで唇を赤く濡らした真柴が雌の顔をして上目遣いで怪しく笑っている。
「なんだっていいだろ、気持ち良いことだけしようよ……」
その妖艶な姿にキイチは腰から背中へと強い電気のようなものが流れるのを感じた。
「──あ、キイチの……すごく匂いが濃くなった」
悪戯するみたいに真柴はキイチの雄を甘噛みして小さく笑う。
突然真柴はキイチに引き上げられてソファに仰向けにされた。破れそうな勢いで下着を剥がれて膝が胸につくほど持ち上げられ真柴の秘部に舌を這わす。
キイチの雄を愛撫しただけで濡れ出した場所を指でこじ開け、中を蹂躙すると真柴は出したこともない悲鳴をあげて中を畝らせた。
「ああっあっ、熱い……っ、キイチ……っ」
恐ろしいくらいに甘い香りが真柴のそこから滴ってキイチは気が狂いそうになっていた。
「も、だめ……だ。痛ぇ……」
苦しそうにキイチは唸ると、前戯もほどほどにいきなり自分の雄を真柴の中に突き立てた。
「痛ッ……、あっ、ああっ……」
真柴は突然の刺激にポロポロと涙を溢して腰を痙攣させた。
馴染む間もなくキイチはその中を何度も何度も擦り上げては乱暴に奥を貫く。
「あーっ、あっ、ああっ……ダメッ、もっとゆっくりっ……してっ、すぐにイッちゃう……キイチッ……だめっ……っ」
「も、無理……っ、一回出す、ねぇここに出していい?」
「うん、いいよ……っ出して……っ」
キイチは熱に浮かされたような声を出しながらかぶりを振っては激しい抽送を繰り返し、真柴の小さな臀部を掴んで奥を強く責め立てて、一瞬声を詰めると真柴の中に全てを吐き出した。
真柴の中でまだ熱と固さを持ったまま今度は真柴の身体を起こして自分の上に背中を向けたまま座らせた。
「真柴、して……」
真柴は素直に後ろを向いたままキイチの上で腰を揺らしはじめる。わざとギリギリまで抜いては再び奥まで深く咥え込むとキイチは苦しそうに何度も声を出した。その声がたまらなく感じてしまって真柴は何度も激しく腰を揺らした。
真柴は自分の中の気持ちい場所に何度もキイチの先端を擦り付けて愉楽の声を漏らしては赤く染まった肩を震わせた。
「そこ……好きなの? 真柴……」
「んっ、……すき、すき……っ」
乱れてる時は嘘みたいに素直で可愛くて──なのにどうして自分を遠ざけようとするのか、キイチには理解できなかった──。
キイチはそんな苛立ちを真柴にぶつけるみたいに乱暴に後ろから突き上げた。
「あっ! ああっ……あっ……」
刺激の強さに前に倒れそうになる真柴を後ろから抱きしめてその身体に上から重なる。
柔らかい肌に唇を這わしながらキイチは何度も後ろから真柴を味わう。
「っ……もっと動いて、キイチ……っ早くっ……」
キイチの憂いなどお構いなしに真柴は快感に全身を震わせて焦らすように動くキイチが気に入らないのか何度も中だけで強く締め付けた。
「……なんだよ、できねーとか言ってたのに……めちゃくちゃ上手に動かしてんじゃん……」
「キイチ……突いてっ……ねぇ、お願いだから……っ」
キイチは真柴を再び仰向けに寝かせ、汗で張り付いた前髪をすくって額に口付け、唇にも優しくキスをした。なのに真柴は乱暴にその唇を割って中に入り、キイチの舌を絡め取っては嬉しそうに吐息を漏らした。
真柴の両足はキイチの腰に絡められ、早くしろと何度もせがむ。望み通りにキイチが中に入ると真柴は心地よさげに安堵ににも似た吐息を漏らしては自分の中のキイチに何度も吸い付いた。
自分を翻弄する真柴に腹が立ち、意地悪く中を乱暴に何度も激しく突き上げると真柴の顔からは次第に余裕の笑みが消えて眉毛を下げて目を瞑り、迫り上がる快感に声にならない声をあげ、全身を震わせていた。
真柴が大きく嬌声をあげるたびにキイチの理性はどこかへ飛んで、あまりの快感に怖くなって最後には逃げようとする真柴の腰を捕まえて、向きを変えて後ろから再び何度も何度も狭い場所を追い詰めた。
一際大きく膨らませて形を変えたキイチの雄が真柴の中で激しく痙攣する。
「あっ、お腹……苦しい……っ、ああっ、ダメッ……壊れるっ……壊れちゃうっ……」
激しすぎる抽送と行き過ぎた快感に恐怖を覚えながらも真柴は奥深くまで自分を貪る熱の塊が愛おしくて気が狂いそうだった。
もうキイチの限界が近いようで真柴の中でビクビクと痙攣し始めている。真柴を追い詰める動きがさらに早さを増し、手を伸ばして後ろから真柴の身体を抱き留めるとその欲望の全てを細い身体の中に最後の一滴まで注ぎ込むとキイチは一気に脱力して真柴の上に重なった。
とても起きていられなくてキイチは真柴の背中からずり落ちるようにソファの背もたれに背中を沈め、そのまま意識を失った──。
真柴は乱れた呼吸をゆっくり整えながら上半身だけを仰向けにして肩越しにキイチの寝顔を覗き込んだ。
寝顔だけは幼くて、可愛い顔をしたα──。
「キイチ……ごめんね」
大人として人として、道徳のないことをした──。
ただ自分の欲望のためだけに……。
「ごめんね、キイチ──これで最後にするから。ごめん……」
真柴は身体を反転させて意識のないキイチの正面からその身体を抱き締めた。
まだ繋がったままのキイチの温度が暖かくて涙が出た──。
目を覚ましたキイチは未だ眠気が取れないのか、見たこともない恐ろしいくらい気の抜けたぼんやりとした目をしている。
真柴はなんでもなかったみたいにきちんと服を着てキイチの前に夕食を出した。
「簡単なものしかないけど──」
そう言って出されたのは生野菜と半熟卵のサラダに山盛りになった焼肉と白米たちだ。
誤魔化しているけれど真柴も身体が辛いようでお茶を淹れようと立ち上がった足元がふらふらとしている。
それをチラリとキイチは目で追った。
キイチにお茶を出して真柴は食欲がないのかソファに腰掛けるとカフェオレだけを口にしている。
キイチはぼんやりした顔のまま本能みたいに出された食事をものすごい勢いで食べ出した。
その姿がキイチの風貌にあまりにも不釣り合いで真柴の口元が思わず綻んでしまう。
「何笑ってんの」
不服そうに寝ぼけた熊が真柴を睨んだ。
「ううん、食べてる姿が可愛かったから」
「それって褒め言葉?」
「褒め言葉」
「じゃあいいや」とキイチは再び口いっぱいにご飯を頬張っていた。
キイチが自分で食べ終わった食器を全部洗ってカゴに入れるとソファに座る真柴はいつの間にか眠りに落ちていた。
その指先から今にも落ちそうになっているマグカップを慌ててローテーブルに避難させた。
「こんなとこで寝たら身体壊すよ、真柴」
深い眠りに落ちている真柴にキイチの声は届きそうもなかった。
仕方ないので初めてこの家に来た時のようにキイチは真柴を抱きかかえると寝室に運んだ。
横に寝かせても布団を掛けても真柴の熟睡は解けることはなかった。
「──そんなになるまでなんで無茶すんのアンタ」
寝ている真柴の横顔を傍で眺めながらその額を撫でる。明らかに熱くてキイチはやるせない気持ちになった。
「俺のせいなの? 俺があと何年か早く生まれてたら真柴はそんな無茶しなかった?」
キイチは主人に仕える飼い犬のようにしばらくその顔を眺めながら深く溜息をついた。
真柴が明け方に目を覚ました頃にはもうキイチの姿はなくて、冷蔵庫の中に買った覚えのないスポーツドリンクとフルーツゼリーが入っていた。
「……本当。腹の立つガキ……」
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