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anecdote.4
深い眠りの中にいた真柴だったが、どんな目覚まし時計よりも効果のある大弥の泣き声に一瞬で目を覚ました。
飛び起きようとしたのに身体がついていかず、顔が枕に撃沈した。するとベッドから先に降りたキイチが大弥を抱き上げあやし始めるのが見えた。
見慣れない姿ではなかったが、夜泣きをあやす姿はあまり見たことがなかったので新鮮なその景色をぼんやりと真柴は眺めた。
抱き慣れた様子で我が子の額に何度もキスをするキイチが無性に可愛くて、ベッドの中で真柴は思わず笑みを漏らす。
すると一言「泣かなくていいよ、何にも怖くないよ、おやすみ。大弥」とキイチが微笑みながら優しく告げると大弥はじっとキイチの瞳を見つめ、あっという間に瞼を閉じで再び眠りについた。
あまりの衝撃的な出来事に真柴は顎が外れそうになるくらい口を大きく開いて大声なんて出すつもりもないのに「なにそれ!」とうっかり喚いてしまった。
声に驚いたキイチと目が合い、真柴は慌てて両手で自分の口を塞いだ。
「ごめん、起こした?」と何事もなかったようにキイチが普通に話すものだから黙ったまま真柴はジェスチャーでこっちへ来いとしつこく手を招く。
首を傾げながらもキイチは我が子を大切にベビーベッドに戻すときちんと布団をかけて真柴のいるベッドへと再び戻って来た。
「ねぇっ、なにそれ、なにそれ、なんなのそれ!」
極力小声でありながらも真柴はものすごい剣幕でキイチを問い詰めた。全く言っている意味がわからなくてキイチは眉間に皺が寄っている。
「なにって、何が?」
「今のだよ! 今のっ、おやすみ大弥からのスヤァの流れ!」
「なんで? おやすみって言ったら普通スヤァじゃないの?」
「ないよ! 何言ってんのっ、俺はね泣いてる大弥を抱っこしたまま水族館のイワシかってくらいぐるぐるこの部屋中歩いて、時には子守唄歌って、擬音だらけの絵本読んで、ミルク飲ませてオムツ変えて、へとへとになってからのスヤァなの! そんなラリホーレベルじゃないよっ」
「ら、ラリホー??」
普段見ることのない真柴の異様な剣幕に終始押されっぱなしのキイチはよくわからないままも、とりあえず怒られている気がしたので「なんかごめん」とだけ口にした。その簡単な言葉がかえって育児疲れの母親を刺激したのか真柴の八つ当たりはさらなる延長戦へと突入した。
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