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anecdote.5
朝から母の隣で真柴は盛大な欠伸を何回も繰り返しながら父とキイチのお弁当を詰めていた。
キイチのお弁当のおかずの詰めかたが若干いつもより荒っぽくて母は神妙な面持ちになる。
その姿に気分良くしているのは食卓で新聞を読む父くらいだろう。だが真柴に「食べる時新聞は置いて来て!」と叱られすぐに父はしょげてしまった。
スウェットの上下で寝癖のついた頭のキイチがよろよろしながら食卓に現われると、義父と真柴が同じような鋭い視線で見てくるものだからキイチは出かかっていた欠伸を思わず飲み込んだ。
「キイチくん、ダメだぞ。子育て中の伴侶には優しく接さないと」
「偉そうに何言ってんのよ、自分はろくに真柴のオムツすら変えられなかったくせに」と母が鋭く父にお灸を据える。
「残念だけどキイチは一通り育児できるよ、お父さん」
真柴は母に続いて父に一言添えてターンエンドする。
「そ、そうなの?」と助けたつもりの舟を簡単に二人に沈められて父は半べそだ。
「あっ、そうだ! お義父さんにご報告がっ」
キイチがわざとらしく、何かを思い付いたかのように手を叩き、意地悪な舅に向かって突然の笑顔で話しだすものだから真柴は折角落ち着いて座ったばかりの椅子からまたすぐに腰を上げる羽目になった。
「キイチッ、待てコラッ!」
キイチの口を塞ごうと伸びて来た真柴の手を簡単に指先で掴むとその甲にキスをしてキイチはご自慢の美貌で眩しいほどの笑みを作り、
「真柴さんがようやく僕の番になってくれたんです」と、義理の父親を朝から心停止させるような言葉をさらりと口にするとパッと真柴の手を自由にした。
母がニヤニヤとあからさまに悪い笑みを浮かべながら顔面蒼白な真柴を見やると、義理の息子と笑顔で向かい合い、共にいただきまーすと仲良く声を揃えた。
真柴はもう誰の顔を見ることも出来なくて、仕方なく腰を下ろすと黙って綺麗に焼けた卵焼きに鋭く箸を突き刺した。
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