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anecdote.6

「バカじゃないのバカじゃないのっ! 朝から何言ってんだ! そんなの気忙しい朝の席で言う話じゃないんだよ!」  キイチが何食わぬ顔をして着替えている傍で真柴はわあわあと赤い顔で泣き叫んでいた。  そんな母親をよそに大弥はベビーベッドの上でふわふわとゆっくり回るベッドメリーを眺めながらとても機嫌良くしている。 「だって四人揃う時ってなかなかないんだもん。家族が揃う朝こそそのタイミングでしょう?」 「だから朝に言う内容の話じゃないっての!」  昨夜の帰宅した時に見せた不機嫌な姿のキイチは今やもうどこにも残ってはいなかった。いつもみたいに綺麗で明るい笑顔を作って優しく真柴を見つめる。  穏やかな顔つきでいきなり真柴を抱き寄せると急にキスしてくるから真柴はさらに俺で遊ぶんじゃないと怒り散らした。 「大好き、真柴。俺の真柴。もう誰にも遠慮せずに言って回れる。俺だけのΩ」 「急に幼児帰りみたいなことするなっ、あとそんなもん言って回るなっ恥ずかしい!」 「言うよ。ずっとお預けくらってたんだから」 「おっ、お預けって言い方はやめろっ」  力で抵抗したところでこの大きな子供が言うことを聞くわけもないので、仕方なく真柴はされるがままにキイチの腕の中で言葉だけの抵抗を繰り返した。  キイチは真柴の首筋にある少し赤みを帯びた噛み跡を意味深に指でなぞると満足げに笑う。  その笑顔にすぐ平手打ちが入ってキイチの自己満足タイムは強制終了した。 「さっさと支度して学校へ行けっ、ひとつでも単位落としたらタダじゃおかないからな!」  キイチは赤くなった頬をさすりながら情けない声で「はい」とだけ返事した。  怒りながらキイチの脱いだスウェットを拾う真柴の全身が真っ赤なことをキイチは決して見逃してはいなかった。

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