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第8話 欲望の開眼
「ウっ……………うぅっ…………ぐっぅ…………あぁあ………………!!!」
這った身体の下に敷かれたシーツは、いつのまにか濡らしたようにびっしょりと湿っていた。
俺から幾度も吐き出された精液と、汗を吸収し、体液を止めどなく染み込まされたそれは乾きが追いついていなかった。
出しても出しても何度も何度も、出て、出て、終わりがなかった。
途中から機械は放り捨てられ、また同じ調子で、高い天窓に薄靄うすもや の朝日が差し込み、倉庫内の彩度が軽くなるまで、何度も何度も男の身体に貫かれ、声を出しながら幾度も激しく背をのけぞり、ベッドのスプリングの上の身体を震動させた。
最終的には仰向けになり、正夜は俺の体に自分の肌を1ミリの隙も無く擦り合わせくっつけた。
平らな胸板が同じく平らな胸板を圧し、押し付ける。
既に懸濁していた俺の意識には、正常な思考が僅かに小さく点々と浮遊するばかりで、疑問も理不尽も既に言葉にならず澱み濁っていた。
放心と混乱は時間が経つごとに増し、俺の頭が言葉で何かを考えようと手繰るのを手放させた。
いつしか俺の心も態度も溷濁こんだく しきり、果てしなく乱れ、気がついたら腕の拘束すら解かれており、男の背後に自らの腕を絡め、両脚でしがみつき、唇を自分から吸いつきに行き、男から与えられる快感を自分のほうからねだり催促にいくように様変わっていた。
長時間の性交は、非合意であっても、俺の青々とした健全な意識を蝕ませ、ねじり折らせ、心も身体も空しく入れ替えてしまった。
心がここにあらずのまま体の快楽だけにむせいでいた。
そのほうが長い時間を耐え抜くのに楽だったからだ。
首を伸ばし、上に被さる正夜の唇を、舌で上下に割り開いて、好きな女にキスするようなキスをすると、彼から来る腰の動きが更に快感を導く甘い動きと変わるのを発見し、それから率先してそのようなキスをするようにした。
両脚を開いて、上に乗る体が更に自分の奥深くに沈み込みやすいよう、俺のほうから工夫し補助するようになっていた。
「ぁぁぁああぁぁ…………」
俺が呼び込む通りに衝撃ショック が最奥まで来て、俺は今まで俺が抱いた女達のような反応を、俺自身でなぞっていた。
自分がねだる通りに乗る男の腰が動くと嬉しくなる。
待てよ、何を、ねだっているんだ。
一体。
一体。
何を。
頭のにごりが僅かに薄れ、俺の瞳がまた頭上の男の顔を睨んだのに気付いたのか、正夜は息を抜いたように口元が笑うと、視線だけはいつもの常と変わらずこちらを見下ろした。
もうやめろ、と男に放つべきなのに
───「中にまた出していい?」俺の前髪を触りながら正夜は聞いた。
俺はひくつく顔でコクコクと頷いていた。
既に重複され沢山出されているお腹は、トイレに行きたいような排便感も蓄えていた。
中に精液が出される度に使用された潤滑液とも混ざり蓄えられて、直腸に重みを与えていた。
そんな生理感覚の中をまたねじ込まれたモノを動かされ、快楽感覚を触発されながら掻き回されるのだ。
いつしか中に出される度に体と頭がカッと熱くなり、背徳的な興奮が俺のちんちんを硬く反り上げるようになっていた。
強引に雌獣にされた背徳的な興奮だった。
合意なく本来持たされ生まれた生理機能にそぐわない精液を浴びせられる受け皿体にされて、俺の体はいつしか有り得ない悦びに浸食されていた。
直腸に受ける男の肉の感覚は、たとえようも無いほどにグロテスクで、亀頭や雁首の感触がはっきり分かる度に、よがる俺の頭を破壊するように追い詰めた。
いつもなら嫌悪する同性の亀頭や雁首が、今こんなにも、俺を快楽の絶壁へと追い詰め、谷底へと突き落とそうとしている。
女の柔らかい白肌じゃなくって、甘く優しげな囀りが耳元で聞こえてくるわけでもなくって、キャンキャンと声高い喘ぎ声が、俺を最頂の男の喜びへと導いてくれるわけでもなくって。
それらの代わりにされながら、他の男の喜びを助けるために、苦しい悶絶を延々与えられるだけの、みじめな絶頂を迎えさせられようとしている存在へと堕とされゆく。
こんな残酷なことを何も知らなかった高校生の俺はこの年下の冷酷無比から突き落とされてしまった。
日常を奪われ、奈落へ。
体が一層弾け飛び、跳ねた。
強烈に絶頂し、酸素が足りなくなるように頭が白くなると、浮遊感のある吸い込まれるような眠気が一気に襲いかかり
……眼界をすっぽり朝日が覆い尽くし、辺り一面透けるように澄んだ。
俺はやっと意識を手放せた。
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