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三年前のはなし②

 ――おまえが俺になにかするわけがない、ね。  そんなやりとりがあったことを感じさせる態度は、成瀬は一度も取っていない。ほかの誰かがあいだにいるときも、いないときも。なにひとつ変わらないままだ。  それでも篠原あたりは気を揉んでいたようだが、一ヶ月近く経った今、時間薬で解決したと思っているらしかった。周囲がそうやって勝手に解釈することも、こちらが必要以上になにも言わないことも、すべて承知しているのだから、本当につくづく性根が悪い。 「息抜きって、風紀潰しの?」 「……」 「教室の空気が最高潮にギスギスしてっから気が詰まる?」  へぇ、と嫌味でなく感じ入った声を篠原が出した。 「さすがにおまえでもきついんだ」 「篠原は俺のことをなんだと思ってんの、本当に」  あいつの強メンタル、人間じゃない。いつだったかそう評していた覚えが、向原にはあった。呆れまじりに、けれど、少なからず感心したように。  ――そんないいもんじゃないと思うけどな、こいつのは。  精神的に安定しているから、だとか、自己が確立しているから、だとか。そういったまともな理由で強いわけでもないのだから。 「まぁ、でも、いいよ、実際。空気が悪いくらい」  黙ったまま煙草を吹かしはじめた篠原を一瞥して、成瀬がまた小さく笑った。指に挟んだままの吸いさしから、ぱらぱらと灰が落ちる。 「潰さないとなぁって決めたから、それはいいんだ」  だって、とコンクリートの上に散った灰を見つめたまま、成瀬は続けた。 「アルファとか、オメガとか、そういうことじゃなくて、入ったばっかりの一年生が安心できないって駄目だろ。俺はここをそんな場にした覚えはない」

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