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三年前のはなし③

 また始まったとばかりに、ちらりと視線を寄こされたが、向原は応じなかった。なにを言ったところでどうにもならないと、十分に思い知っている。無意味なことをする趣味はない。  その代わりのように、篠原が口火を切った。 「っつか、どうすんの、おまえ」 「え?」 「その一年だよ、一年。榛名だっけ。すげぇ懐いてるみたいじゃん。なんて言われてるか、知ってるよな」 「それは、まぁ。でも、いまさらだしなぁ。――あ、行人がどうのこうのじゃなくて、俺が言われる、のほうね。俺の噂なんてめちゃくちゃいろんなの出回ってるし。べつにひとつくらい増えたって」 「おまえが放置してるからだけどな?」 「んー……、なんか、そういうのにいちいち目くじら立てると、負けた気分になるっていうか。きりないし。それに、俺、なに言われても、べつにどうでもいいしなぁ、本当」 「あのな、成瀬」  成瀬よりもよほど現状を把握している苦労性が、言い諭すように言葉を重ねている。なんだかんだで面倒見が良いから気になるのだろう。難儀なやつだな、と向原は思っている。 「おまえはよくても、向こうはよくないだろ。言っても聞かないと思うけど、おまえのそれ、めちゃくちゃ性質悪い。けっこう最悪」 「それ?」 「柏木にもだけど。その気もなんもないくせに、おまえは特別みたいな顔で優しくするだろ、おまえ。それだよ、それ。……柏木はわかってるから、まぁいいとして、わかってないやつもいるだろ」  はは、と改める気のいっさいない顔で成瀬は笑っている。 「そうかなぁ。そんなつもりないんだけど」  ――助けてやってる。それで向こうにも損はないだろ。  かつて、そんな偽悪的なことを言っていて、そうしてそういった計算も実際にしているくせに、妙なところで情に絆されることを向原は知っていた。  その甘さが、いつか絶対取り返しのつかない事態を引き起こす。そう思っていたから、あのときも言ったのだ。  ――まぁ、聞かなかったけどな。

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