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瞳に一番星②

「そんなわけねぇだろ」  苦笑に留めた向原の代わりに、篠原が律義に否定してみせていた。次いで注がれた呆れと気がかりがないまぜになった視線には気がつかないふりで、向原は手元の本のページを繰った。  寮の部屋であったり、あるいは、長期休暇中の誰かの別荘であったり、そういった邪魔の入らない場所で気心の知れた数人で過ごす時間を、意外なほど気に入っていたことを、この時期の自分はもう認めていたのだろうと思う。  他人の気配も邪魔なものばかりではないと知って、それなりに満たされていた。だから、この時間が続くのなら、それはそれでいいかと考えていたのだ。  そこにはまだたしかなものがあった。  ――いいのか、おまえ。  篠原がそんなふうに慮ってくるたいていの場合の理由は同じものだった。  ――あいつ、おまえのこと必要以上になんでもできるって思ってる気がすんだけど。  せっかく人間らしくなったのに、という、それまでの自分が人間ではなかったかのような言い方には笑ってしまったが、あるいは、そのとおりだったのかもしれない。  この学園に入る前とその後では、たしかに変わった。以前の自分だったら、きっとなにも迷わなかった。

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