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寝息を頂く幸福③

「俺も、あと二年早く生まれてたらよかったかなぁ」 「やめとけ」 「なんで?」 「かわいがってやれなくなるから」  年下じゃなくなるから、ということなのだろうか。でも、それだったら、もっと「友達」という感じになるかもしれないのに。よくわからなくて、わからないままに匙を投げる。 「鼎くんの言うことも、たまによくわかんない」 「こいつよりマシだろ」  それは、まぁ、そうかも、と認めると、声を立てずに向原が笑った。その指先は、ごく自然なしぐさで幼馴染みの髪を梳いている。  起こすなよ、と言ったときと同じ、優しくて柔らかな動きで。なんなんだろうなぁ、本当。深く考えないほうがいいとわかっていても、目の当たりにするとついついいろいろと考えてしまう。 「うち来るの、楽しみか?」  うち、というのは、この家ということではなく、来月入学することになっている陵学園のことだ。唐突に話が変わった気もしたけれど、皓太は素直に頷いた。 「祥くんもいいところだって言ってたし、鼎くんたち見てると本当にそうなんだってわかるから」  だから楽しみだよ、と答える。  はじめてがらりと変わる環境にまったく不安がないと言えば嘘になる。けれど、楽しみのほうが勝っていることは本当だ。  この人たちがいたら大丈夫だと信じていたからかもしれない。  幼馴染みに対して幼いころから抱いている盲目的な信頼と、その幼馴染みが信頼している彼らへの信頼。そういったものが、皓太の中でたしかに育っていた。

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