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寝息を頂く幸福④

「でも陵に入ったら呼び方は変えるよ」 「なんて?」 「んー……、向原さん?」 「こいつも?」  うん、ともう一度頷くと、うるさそうだな、という苦笑じみた答えが返ってきた。話を終わらせたくなくて、でも、と理由を言い募る。 「呼び方って大事だと思うし」 「そうか?」 「だって、俺のことをよく知らない人は、耳にした呼び方で関係性を判断するでしょ。あんまり変なバイアスを自分でかけたくないっていうか」 「気苦労の多そうなやつだな」  おまえも、というような言い方に、思わず笑みがこぼれた。なんでもできて、なんでも持っている幼馴染のことを、そんなふうに評す人は今まで誰もいなかったからだ。  そうして、こんなふうに人前で安心した寝顔を見せるのだということも。よくわからないままに、胸がいっぱいになる。もしかすると、安心感に似ていたのかもしれない。 「絢美が言ってたんだ」 「絢美ちゃんが?」  問い返してくる声は、柔らかで穏やかだった。聞き慣れた幼馴染みのものとは違っていたけれど、でも、優しいことはわかって、だからなのかなと思った。  だから、ずっと近くにいたはずの幼馴染みの知らない一面を、ここにいるとたくさん見ることができるのかな。

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