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クリスマス番外編②

 どんどんと思い出話に脱線していく母の話を、「じゃあ」と半ば無理やりに切り上げにかかる。 「俺、そろそろ戻らないと駄目だから」  切るね、という一言を最後に通話を切る。切る直前になにか言っていたような気もするが、どうせ一週間もしないうちに帰るのだ。そのときに聞けばいいだろう。  電話がかかってきたから抜けただけで、寮生委員の仕事が残っていることも本当だし、だが、それよりも。  物言わぬ携帯を見つめたまま、皓太はぽつりと呟いた。 「絶対、覚えてるよな、あの人」  嫌になるくらい記憶力がいいのだ、あの人は。年の差と言ってしまえばそれまでかもしれないが、あの人に勝てない理由のひとつは間違いなくこれだと皓太は思っている。  家庭内で母と結託して(幼馴染みに結託している意識はない気はするが)幼いころのエピソードを披露されるだけでもたまったものではないが、ここは外界である。絶対にバラされたくない。特に、知れば、間違いなく小馬鹿にしてくるだろう同室者には。  釘を刺しておこうと心に決めて、皓太はクリスマスパーティーの準備を行っている食堂に引き返した。

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