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クリスマス番外編⑦
「あ、行人」
成瀬の声に、ぎょっとして作業の手が止まった。成瀬のほうを見れば、食堂の入り口に向かって、おいでおいでと手招いている。
つられて視線を向けると、あまり見たくなかった顔とばちりと目が合ってしまった。その状態で無視できるわけもなく、無難な台詞を投げかける。
「珍しいね」
榛名がこういった集まりにすすんで参加することはめったとないことなので、間違ったことは言っていない。
「べつにいいだろ」
「悪いとは誰も言ってないけど」
そう、ちょっとあまりにもレアだったからびっくりしただけで。あとタイミングが悪いなと思っただけで。
――あ、でも、こういう集まりごとが嫌いなわりには、寮でクリスマスパーティーがあるって聞いたときは、ちょっとうれしそうにしてたっけ。
もしかして、クリスマスは好きなのだろうか。今も物珍しそうに飾りつけ途中の食堂を見渡している。
「行人はサンタっていつまで信じてた? ちょうど今その話してたんだけど」
まだこの話が続くのか。内心でげんなりとはしたものの、たぶん平等に話を振っただけなのだろうとわかるだけになにも言えない。そういう人なのだ。
仲間外れはつくりませんよ、みたいな。それだけで、そこに他意はないのだと信じたい。
「え」
ぱちりと榛名が大きな目を瞬かせた。妙に幼いしぐさで。
「いるって信じ……、え?」
「ん?」
「サンタいないんですか」
その台詞は、タイミング悪く三年生たちの笑い声が途切れていた食堂に、これでもかと響き渡った。
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