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10 三角関係※※※

 それから、俺は結局流されに流された。週に二、三回は会って体を重ねている。俺がいない時は女を呼んでいるのかと思うとどうしても気になって、自然と足が向いてしまう。部屋に行けば、俺にその気がなくてもそういう流れになる。その繰り返しだ。    春休みが明けて大学が始まれば、やはり毎日のように顔を合わせている。授業が被るのもあるが、同じ研究室に入ったことが大きい。偶然だね、とあいつは笑っていたが、たぶん意図的にそうしたのだろう。俺は体育の先生になりたくて大学に進学したが、そのためにはここのゼミで学ぶのが最適解だということを、牧野も当然知っていたはずだ。   「伊吹ちゃん、今日は部活?」    ゼミが終わって帰ろうとする俺を、牧野は相変わらず目敏く見つけて声をかけてくる。しかも、部活があるかないかなんていう答えのわかりきったつまらない質問をわざと投げてくる。   「今日は休みだ」 「じゃあバイト?」 「バイトもない」 「おお、それはちょうどいいな!」 「……何がだ」    嫌な予感がする。   「いやなに、一度武道場を見学してみたいと思ってたんだ」    やはり、こういう勘は当たる。そして、こういう時の牧野は面倒くさい。一度断っても何度も食い下がって要求を通そうとするはずだ。それをまたいちいち断り続けるのも時間の無駄というもの。   「やっぱりダメ――」 「いいぞ」 「いいの!?」 「おかしなやつだな。お前が見たいと言ったんだろ。特に面白いものもないが、一回で満足しろよ」 「あ、ああ。もちろんだよ……!」    講義棟を出、武道場へと自転車を走らせた。かなり年季の入った建物だが、稽古場はそこそこ立派だ。手前は板張り、奥は畳敷き、正面の床の間には掛け軸が掛けてある。   「こうして見ると結構広いね」 「まぁ、今誰もいないからな」    普段よりもがらんとして見える。   「伊吹ちゃん、いつもここで練習してるんだ」 「お前も入部するか?」 「まさかぁ。オレはテニスで忙しいからな」 「ほとんど顔も出してないくせによく言う」 「しかし、畳を見ると横になりたくなるね」 「あ、おい。だらしがないぞ」    俺が止めるのも聞かず、牧野は大の字に寝転がった。つられて俺も腰を下ろす。広い武道場で、筋トレすらしないでだらだらと、一体何をやっているんだろう。   「あの、心技体ってさ」 「掛け軸?」 「そう。あれ」 「大昔の先輩が書き残したらしい。俺もよく知らん」 「へぇ。なかなか達筆だね」    ただ、不思議とあまり嫌な気持ちはしない。たまには静かな場所でのんびりするのも悪くないのかも。牧野と二人きりというのは気に食わないが。   「お前、前にもここへ来ただろ」 「そんなことあったかなぁ」 「あった。一昨年の学園祭、うちの出し物を見に来たはずだ」 「……覚えてたんだ」 「当たり前だろ。子供に交じってお前……なかなか面白かったぞ」 「でも稽古はちゃんとしてただろう? なんだか懐かしいな」 「どうして去年は来なかったんだ? お前が来ると思って待っていたのに」    不意に牧野が起き上がり、肩を抱かれてキスされた。そんなに嫌じゃなかったのに、いつもの癖で口元を拭う。   「な、何のつもり……」 「わかってるくせに。いいだろう? 一回で満足するからさ」 「あ、あれはそういう意味で言ったわけじゃ……」    優しく背中を倒され、着ていたものを脱がされる。道場でこんなの、駄目なのに。   「で、でも、舐めるのとか、絶対嫌だぞ」 「大丈夫だよ、ローション持ってるから」 「は!? お前、いつも持ち歩いてるのか?」 「ゴムも持ち歩いてる。なに、いざって時のためさ。前はそれで酷く嫌われてしまったからなぁ。ほら、後ろを向いてくれ」 「あ……で、でも……」    いけない。流される。絆される。それなのに俺の体は牧野の言葉に素直に従い、四つ這いになって尻を高く上げた。こんなの、本当は駄目なのに……。    狙っているのか偶然なのか、牧野の指は尻の中の性感帯を的確に触る。大袈裟に反応して喜ばせても癪なので、指を噛んで声を堪える。とはいっても、腰は勝手に揺れている気がする。   「伊吹ちゃん……最近おかしいぜ」 「……なにが……」 「いや、だってさ……」    はっきりと言わず、後ろを慣らし続ける。ローションのネチョネチョした水っぽい音が、静かな場内に響く。   「そろそろいい?」 「ん……」 「挿れるね」    指の何倍もの質量が、尻を割いて胎内を埋める。痛い。痛くはない。嫌でもない。この感覚は、何と呼べばいいのだろう。腰を掴んでいた牧野の手が前に回って、俺の唇を撫でる。そうしながら、背中にキスを落とされる。   「は、ぁ……」    思わず熱い吐息を漏らした時。突然、入口の扉が開いた。   「……っ!」    俺は目を剥いた。叡仁先輩が、黙ってこちらを見つめていた。遠くからでも目が合った。世界が止まったように感じた。    心の底から本当にショックを受けた時、人は声を出せないものらしい。ついでに耳も聞こえなくなる。叡仁先輩がゆっくりとこちらへ歩いてくるのを、まるで無声映画を前にしたみたいに眺めていた。    先輩が、俺の目の前で膝をつく。きっと幻滅された。神聖な道場で何をしているのかと叱られるのか? 頬を張り飛ばされるだろうか。どうしたらいいのかわからなくなって、俺は目を瞑った。    しかし、先輩の俺への触れ方はあまりにも優しい。優しく頬を撫で、唇が触れた。目を開けると、睫毛が触れ合う位置に叡仁先輩の端麗な顔立ちが見えて驚愕する。一体何が起きているんだ。理解が全く及ばない。今己の唇が触っているのは、もしや叡仁先輩の唇なのか?   「ん……ふぁ……」    先輩の舌が、優しく唇を割って這入ってくる。これが叡仁先輩の舌。肉厚で男らしい。俺の口内を優しくくすぐる。    キスしながら先輩は俺の手を取り、自身の下腹部へと触れさせた。ズボンの上からでもわかるくらい張り詰めている。俺は息を呑み、ジッパーを下ろした。さらに下着をずらすと、雄々しく猛ったものが勢いよく飛び出す。ごくりと喉が鳴る。    自然と舌を伸ばしていた。赤く剥けた先端を、アイスを舐める要領でぺろりと舐める。少ししょっぱい。透明な汁が糸を引く。    と、いきなり後ろから突き上げられた。牧野の爪が皮膚に食い込む。揺れる視界の中先輩を見上げると、頭を撫でながら微笑みかけてくれた。   「できる範囲でいい」 「で、でもおれ……や、やり方が……」 「全部口に入れるんだよ」    牧野が言う。腰から背中まで密着させて、耳たぶを舐めるように囁く。   「全部口に入れて、下の方は手で握って、竿をごしごししてあげるんだ。してあげたことあるんだから、わかるよね?」    そうか。牧野にされたことを思い出せばいいのか。俺は先輩の雄を口いっぱいに頬張った。収まり切らない部分は手で刺激する。先輩が息を詰めるのが気配でわかる。   「あは、なかなか上手じゃないか。そうしたらねぇ――」 「俺はカリ首が好きだからそこを舐めてほしい」    カリ? って、どこだっけ。   「亀頭の付け根の段差のことだよ」 「裏筋も好きだ」    俺もそこが好きだと、いつか牧野が言っていた。なんだかもうよくわからないが、カリと裏筋に舌を這わして舐める。ただでさえ大きな雄芯が、さらにむくむくと膨れ上がる。しょっぱい汁がどんどん溢れてくる。   「お前の口は、小さいな」    先輩はしみじみと息を吐き、俺の頭を撫でる。牧野は面白くなさそうに舌打ちをする。   「ちぇっ。美味しそうにしゃぶっちゃってさ」    腰を掴み直し、乱暴に奥まで突き入れられた。その衝撃で先輩のものが喉まで入ってしまい、俺は嘔吐(えず)いた。涙まで出てくる。しかしこんなに立派なものを放置しておくのは可哀想な気がして、俺は嘔吐(えず)きながらも口を離さなかった。突かれながら咥えるのはなかなか苦しいが、意地で頑張った。牧野はますます面白くなさそうだ。   「今伊吹ちゃんを抱いてるのはオレなのに」 「……伊吹……」    叡仁先輩が、俺を名前で呼ぶ。しかもその声が、まるで愛しい者を呼ぶような声だと、俺の耳は錯覚した。きゅーん、と胸が子犬の鳴き声のような音を立てる。何だろう。どきどきして、嬉しくて、舞い上がりそうで、けれどなぜか牧野の熱を如実に感じる。   「ちょ、急に締めたら――ッ!」    ゴムの中で、牧野が爆ぜたのがわかった。俺の中で脈を打っていたが、少しして抜けていった。かと思うと、すぐに体勢を変えられる。仰向けに倒され、牧野は俺の頭を抱いて熱心に唇を吸う。そうなると必然的に、叡仁先輩の方へは下半身が向いてしまう。先輩は俺の脚を開かせると、半勃ちになっていたソレをあろうことか口に咥えた。   「ひぁ……っ!?」    予想だにしなかった刺激に、目の前に星が飛ぶ。声を出したら楽になるような気がするのに、生憎牧野に塞がれていてろくに喘げやしない。その間にも、先輩の舌は俺の弱いところを的確に責める。裏筋、鈴口、カリ首とやらも気持ちいい。そして何より、憧れの叡仁先輩が俺のものを舐めているという事実に目が眩む。   「ふぁ、や、ぁ……、んぁ……っ」 「……かわいい声で啼くんだな」 「伊吹ちゃん、オレにも集中してよ」 「ん、んぅ……っ」    キスされながら、胸を愛撫される。女のそれと違って俺の胸は堅いはずなのに、物ともせずに揉みしだかれる。常々邪魔だと思っていた乳首を摘ままれ、指の腹で転がされる。乳輪をすりすり撫でられながら、尖端をカリカリ引っ掻かれる。   「んん……も、やぇ、や……ひぅっ!?」    後ろに指を挿し込まれた。叡仁先輩の指だ。男らしく、固くて太くて筋張った指だ。二本か三本入っている。既に十分慣らされているのだからそんなことする必要ないのに、先輩は俺の中を丁寧に愛撫する。ローションを塗り付けるように腸壁を撫でながら、同時に口での愛撫も続く。    前から後ろからそして上から、体中至るところを隈なく愛される。明らかな性感が俺の身を焦がす。頭がくらくらして、息ができない。体が熱くて堪らない。汗が噴き出す。   「我慢しないで、口に出していいぞ」 「伊吹ちゃん、かわいいよ」    そんなことを口々に言われて、おかしくならないわけがない。腰が重くなり、陰嚢が持ち上がる。   「いいぞ、出して」    いいわけない。叡仁先輩の尊い口に吐き出すわけには……。けど、もう、我慢が……   「伊吹」 「伊吹ちゃん」    甘い声で名前を呼ばないでくれ。ああもうだめ、だめだ、だめ、だめ――   「――ンんん゛っ……っ!!」    腰が激しく痙攣し、吐精した。先輩の口に出してしまった。ショックと倦怠感で体がずっしり重い。頭がぼーっとして何も考えられない。牧野が俺の頭を撫で、頬にキスを落とす。   「ちゃんとイけて偉いね、伊吹ちゃん」 「ぁ……はぁ……」    褒められて喜んでいる場合じゃない。叡仁先輩の指が抜け、口が離れた。潤む視界の中、その喉が上下するのが確かに見えた。まさか、飲むなんて。羞恥で顔が熱くなる。   「いっしき、せんぱ……」 「名前で呼んでくれ、伊吹」 「え……えいじ、せんぱい」 「お前は本当に可愛らしいな」    初めて下の名前で呼べた。泣きたくなるくらい嬉しい。胸がぽかぽか温かい。しかしその余韻に浸る暇もないうちに、牧野は俺の顎を掴んで引き寄せる。   「伊吹ちゃん、オレのも舐めて」    ズル剥けの亀頭が唇に押し当てられる。ぬるぬるしていて、濃い雄のにおいがする。これが、牧野の……。間近でよく見るのは初めてで、どきどきした。俺は口を開け、ぱくりと先端を咥える。牧野が息を呑むのがわかった。   「い、伊吹ちゃ……」 「俺も入っていいか? 伊吹」    先輩が俺の膝裏を掴んで股を開かせる。脚の間に膝を立てて座り、聳え立つ肉塊を宛がわれる。待って、と言いたいのに言葉が出ない。その代わり、媚びたような声とも吐息ともつかないものが漏れる。   「入るぞ」 「ひ、ぁ……あぅ゛んっ……!」    奥まで一気に貫かれた。強烈な刺激に脳が痺れる。視界が白み、遠くの方で星がチカチカ瞬いている。   「……伊吹ちゃん……」    牧野の拗ねたような声に意識を引き戻される。見れば、臨戦態勢のままの牧野のものが、何とも切なげに震えている。挿入の衝撃で、口からすっぽ抜けてしまったのだ。俺はもう一度口を開き、それを頬張った。   「んむ、ぅ……おっひぃ……」 「伊吹、俺に集中しろ」 「っ、せんぱ……」 「違うよ、オレに集中して」 「ぅ、んぁ……っ」    もうどうしたらいいのかわからない。集中しろと言ったって、性感があっちこっち分散していて処理しきれない。頭が混乱する。ぐるぐるする。とにかくできそうなことからやるしかない。    叡仁先輩に揺さぶられながらも、歯を立てないよう牧野のものをしゃぶる。正直、全然上手くできない。体勢が変だし、俺の口に男の一物は大きすぎる。けれども、教えられた通り竿を手で扱き、先の方は口に含んでちゅうちゅう吸う。これでいいのだろうかと牧野を見上げる。牧野はうっとりとして、汗ばんだ俺の髪を梳く。   「伊吹ちゃ、気持ちいい……気持ちいいよ、伊吹ちゃん」 「んっ……おれも、きもひぃ……」 「伊吹、ここがいいのか?」 「ひぁっ!? あ、ぁ、あぁっ……!」    尻の中の性感帯を的確に突かれる。エラの張った部分でぐりぐり押し潰される。堪らず身が捩れ、女みたいな情けない声が抑えられない。   「ひっ……ん、んんんっ、ぁんっ、ぁ、やめ、ゃ、やぁっ……っ!」 「っ、すごく締まるな……」 「……なんか、いつもより良さそうなんだけど」    先輩は、なぜか少し嬉しそう。でも牧野は拗ねているようだ。むっとした様子で、俺の舌に亀頭を擦り付ける。   「ごめっ、んぁっ……、れも、きもひぃ、んぅぅっ、きもひぃよぉっ」 「気持ちいいか、伊吹」 「ぅんっ、きもひ、えーじせんぱい、きもひいぃ」 「ダメだってば! ちゃんとこっち見て」    牧野に頭を押さえられる。唇にぬるぬるの汁を塗り付けられる。俺は夢中で舌を伸ばし、それを舐めた。   「ん、んっ……」 「そう。上手だよ、伊吹ちゃん。ベロ、気持ちいい?」 「んぅ、ぅ、きもひぃ……っ」    不意に叡仁先輩が上体を倒し、体が密着した。必然的に、俺は脚を大きく広げることになる。中のものも、より深いところまで侵入する。苦しいような、でも胸がいっぱいで、口の中もいっぱいで。訳がわからなくなる。    胎を穿たれながら、乳首を舐められる。先輩の肉厚の舌が俺の胸でうねる。強く吸い上げられれば、授乳をする母親の気分になる。頭上からは牧野の手が伸びてきて、もう片方の乳首を摘ままれる。指先できつく抓られ、捏ね回される。かと思うと、俺の顔の横に置かれていた先輩の手が優しく俺の指に絡み付いて、恋人同士のように握りしめられる。    一分の隙もなく愛されている。全身が火傷してしまう。過ぎた快感と満ち足りた幸福で脳が灼き切れそう。もし今死んじゃっても全然構わない。   「も、もぉらめ、……いく、いっひゃう……っ」 「俺もだ。一緒にイッてくれ、伊吹」 「ぃ、いっしょ、にっ……?」 「伊吹ちゃんっ、オレの、口に出したら飲んでくれる?」 「ぅん゛っ、のむっ、のむからぁ゛、らひてぇ……っ」    俺はとっくに狂っていたのかもしれない。びゅるる、と勢いよく飛び出た白濁液を、夢中で口を開いて受け止める。一滴も零さないよう舌を伸ばして舐め取って、青臭いのも構わずに嚥下した。ねっとりと喉に絡んで飲み込みにくい。けど、これが牧野の味……   「俺ももう限界だ、受け止めてくれるか?」 「ぅあ゛っ、いい、いいからぁ゛っ、らひて、なかっ、なかほしいっ……っ!」    力強く腰を抱えられ、何度も奥まで打ち付けられる。脳まで激しく揺さぶられ、ぐるんぐるん目が回る。腹の奥底が熱くなる。何かがせり上がってくる。ああだめ、だめだ、もうだめ……男の部分は一切触られていない、のに――   「ぃ、く、いぐっ、い゛っ――ん゛ぅう゛っっ……!!」 「くっ……」    達した瞬間、先輩のものを締め付けた。その形や感触や温度がありありとわかるくらいに。そしてほとんど同時に、胎を蕩かすような熱い液体で満たされた。腰を強く掴まれたまま、ゆるゆると奥を擦られる。   「んっ、ぁ……や、ぁ、あつ、い、……」 「伊吹……」 「ん、ふ……」    惚けたように薄く開いていた唇を奪われる。口の中に残っていた牧野の精液を、叡仁先輩はすっかり吸い出した。    後ろから質量が抜けていく。もう指一本動かせない。なのに、間を置かずに再び硬い肉棒が押し込まれる。望むと望まざるとに関わらず、俺のそこは雄を迎え入れ喜ばせるための器官として十分に機能しているらしい。全く痛くないどころか、挿れられただけで軽く達してしまう。自分の体が恐ろしい。   「ひっ……ぃあ、らめ、も、らめ……」 「オレだって伊吹ちゃんのナカに出したいよ」 「ぁ、んぅぅ……っ」    畳に突っ伏して悶えるも、腰を掴まれて引き戻される。脚を大きく開かされて恥ずかしい。さっき射精したばかりのはずなのに、牧野のそれは相変わらずの硬度と角度を保っていて、深いところまで貫かれると堪らず腰が反ってしまう。   「いっ……ぁあ゛っ! んぁ゛、はぁっ……」 「伊吹ちゃん、奥、どう? 気持ちいい?」 「きもちっ、ひっ、きもひ、からぁ゛、やぇ……っ」 「前立腺は? 好き?」 「あ゛ぁあっ! すきっ、すきぃ、すきらからぁ゛っ!」 「嬉しいっ。オレも好きだよ、伊吹ちゃん!」    何が何だかわからない。でも気持ちいい。逃げ出そうなどとは思いもしない。津波のように押し寄せる圧倒的な快楽に、ただただ身を震わせるばかり。   「伊吹、こっちを向け」    叡仁先輩の声だ。視線を向けるなり、唇を塞がれた。ただでさえ酸欠気味なのに、呼吸ができなくて苦しい。でも先輩の舌は気持ちいい。俺も夢中で舌を絡めた。   「せ、んぱ……」 「名前」 「ぇ、えーじ、せんぱ……」 「かわいいな」 「ふ、ぁ……っ」    うっとりしていたら、いきなり局部を触られた。意識は一瞬で下半身へと飛んでいく。牧野が腰を振りながら、俺のものを擦っている。前後運動に合わせて扱かれ、ぞくぞくしたものが全身を駆け巡る。   「や゛っ、ぁ゛んっ、やめ゛っ、やっ、ぁあ゛っ!」 「今ナカに入ってるの、オレなんだよ。伊吹ちゃん、わかる? ねぇ」 「わが、る゛、ぅう゛っ、わがる、がらぁ゛、ゃめ゛っ……!」    中と外の弱点を同時に責められる。刺激が強烈すぎておかしくなる。一緒にするのはやめてと言いたいのに、舌が縺れて言葉にならない。下手くそな嬌声ばかり上げてしまう。はしたない。恥ずかしい。嫌だ、こんなの。でも、すっごく気持ちいい。繋がったところから溶けちゃいそうだ。    叡仁先輩が不意に俺の手を取り、自身の下腹部に触れさせた。ここもまた、ついさっき出したばかりなのにもう硬くなっている。触ってくれなんて言われなくても、俺はそこを握って上下に扱いた。自分が今されているみたいに、汁を塗り付けるようにして亀頭を擦り、鈴口を指でほじくる。   「お前の手は、気持ちがいいな」    先輩が俺を見つめて微笑む。頬は上気し、汗で髪が張り付いている。高潔な叡仁先輩が、俺なんかを前に興奮して雄を腫らしているなんて。この状況だけで堪らなくなる。抱き寄せられ、キスされた。優しいキスだ。大きな手で頭を撫でられた。胸がきゅんきゅん高鳴って仕方ない。    ふと牧野の手が伸びてきて、俺の空いている手を握った。強く引き寄せられて、しっかりと指が絡む。牧野がじっと俺を見つめる。段ボール箱に入れられた子犬のような目だ。えげつない勢いで腰を打ち付けながらそんな顔をするな。俺は自分がわからなくなる。牧野と手を繋いで、嬉しいだなんて。   「ンん゛っ、も、もぉ、おれ……っ」 「イきそう? いいよ。一緒にイッて、伊吹ちゃん」    手を繋いだまま、同時に前を責められながら、深いところを激しく突き上げられる。けれども俺の片手は、叡仁先輩のものを愛撫している。先輩とキスをしている。隣に寄り添っているのも先輩、目の前に見えるのも先輩の顔。けれども、休む間もなく与え続けられる熱は紛れもなく牧野のもの。今俺を気持ちよくしてくれているのは、確かに牧野なのだ。    混乱してきた。否、ずっと混乱していた。混乱しっぱなしだ。でも、どっちにしてもとにかく気持ちいい。思考が、重厚な快感に押し流されていく。与えられるままに身を任せ、俺は上り詰める。   「ひっ、く、いく、いくぅ゛――っ」 「いいよっ、伊吹ちゃん、伊吹ちゃん」 「ぃ゛――、あ゛ぁあ゛っっ……!!」    胎内が灼けるように熱い。まるで媚びるように、腸肉が痙攣と収縮を繰り返す。その度に牧野の熱を如実に感じてしまい、それがまた火種となって腰が痺れる。牧野は息を荒げながら腰を回し、念入りに子種を擦り付けた。そうされると染み込んでいく気がして嬉しい。俺も腰をくねらせて牧野を迎え入れる。   「ふぁ、ぁん……」    胎を埋めていた肉棒が離れていく。急に寂しくなった。ぽっかり空いたところが切なく疼く。何でもいいから早く満たして。雄の全てを俺に寄越せ。    いきなり体勢を変えられた。後ろ向きにされ、四つ這いになろうとするも膝が笑ってしまって立てず、うつ伏せのまま尻臀を割り開かれる。   「ぅ……、あ゛ぁん゛っっ!!」    ゴツンッ、と脳にまで衝撃が響く。切っ先が触れて瞬く間に穿たれた。一番奥の閉じられたところを激しく叩かれ、視界が真っ白に爆ぜる。電撃が走ったように腰が痙攣し、とろとろと精液が溢れる。スパークした視界の中、白い火花がバチバチ弾けている。体の痺れが止まない。息が、できない……   「あ゛っ、ぉ゛……、ぁあ゛……っ」 「伊吹ちゃん、オレのもっ! オレの、もう一回してっ」 「はっ、ぁ゛ぐ……」    猛ったものを口に捩じ込まれた。俺の口には大きすぎるのに、顎が外れるくらい口を開いて必死に舐めしゃぶる。雄のにおいが濃い。気持ちいい。苦しい。気持ちいい。   「伊吹、こっちだ」    抱き寄せられて、背後から抱きしめられる。背中に堅い胸板が密着する。耳元に興奮した息遣いを感じる。熱い。気持ちいい。もっとくっつきたい。熱に浮かされた体が勝手にビクビク跳ね回る。   「伊吹ちゃん、ちゃんと咥えて」 「んむ゛、ぅ゛……っ」 「俺に集中しろ」 「ぃあ゛、あ゛、ぅう゛っ……っ」    達したはずなのに、気持ちいいのが止まらない。むしろどんどん気持ちよくなる。吐き出したはずの快感が、いつまでも纏わり付いている。このまま、俺はどうなってしまうのか。頭が、体が、おかしくなってしまう。そう思うと恐ろしいのに、今はまだ手放したくない。この快楽に、永遠に浸っていたい。

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