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第12話

■■■ 仕事を辞めてからというもの、すぐに職を見つけようとしてそれを侑生に止められている。 今まではそんなこと無かったのに、俺がいつも家にいるという生活を送ったせいで、『いつもいる』という事実が嬉しいらしい。 今朝は「次出かけたついでに履歴書買ってきて」とお願いしたところ、抱きつかれ「家にいてください」と言われる始末。 「帰ってきたら洸ちゃんがいるなんて今まで無かったから、この喜びを今後死ぬまで味わっていたい。だからお願いです。働かないでください」 「無理です」 そう言って胸の前でバツ印を作る。 大袈裟にショックを受けている彼は、床に倒れ込んでシクシク泣き真似をしだした。 彼の隣に座り、背中を撫でながら『困ったな』と思う。 「働かないっていう選択肢は俺の中で有り得ないんだよ。働いてもらったお金で侑生と生活したいし、好きな物買いたいし、……侑生にプレゼントを渡したい。」 「プレゼントは洸ちゃんがいい」 「わかった。じゃあ次の侑生の誕生日プレゼントは俺な。でも好きな物買ったり、毎日の生活費とか、その為のお金を稼ぎたい。」 「俺が買うし、払うよ……?」 「対等じゃないのは嫌だ。いつだって侑生に引け目を感じたくない。」 「引け目なんて感じなくていいんだよぉ。洸ちゃんのワガママぁ!」 「お前がな」 またガバッと抱きつかれ、バランスを崩して倒れた。 侑生の手が俺の後頭部を守ってくれたおかげで頭をぶつけずに済んだ。 「危ないだろ」 「だって……」 「だっても、でももない。俺の人生なんだから俺が決めていいだろ。」 「……それは、そうだけど。」 俺の胸に顔を押し付けている侑生が、突然起き上がり、無表情になった後、にっこり笑って俺を見下ろす。 「わかった。じゃあ俺から洸ちゃんに合いそうな会社、紹介していい?」 「……危ないヤツじゃないだろうな」 「そんなわけないよ!洸ちゃんに紹介するんだよ!?」 キラキラした目が怖い。 何かを企んでいるのではないかと疑り深くジッと見ていると、侑生が顔を赤く染めた。なんだそれ。 「……何照れてんの」 「洸ちゃんが見つめるから……」 「見つめてない。疑ってた」 「疑う……?まあ、何でもいい。俺ね、洸ちゃんの視界に誰よりも多くの時間入っていたいんだ。」 フリーズした俺は悪くない。 よくもそんな、恥ずかしい言葉を真顔で言える。 「……侑生って昔から変だよな。」 「それは褒めてる?」 「いや」 「……洸ちゃんが好きでいてくれるなら、変でもなんでもいいや。」 また彼はにっこりと笑顔になる。 俺はついつい苦笑を零した。

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