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第16話
やっぱり侑生が恋人だと公にできないことに引け目を感じる。
同性同士だから、公言したとして、世間から疑うような目を向けられても文句も言えない。
侑生もいつかは、素敵な女性と結婚するのだろうか。
そんなことを考えると悲しくなったと同時に、今のうちに思い出を沢山作ろう!とやる気になって、本屋の開店時間に合わせて店を出た。
本屋に並ぶ旅行雑誌の前に立って、どこにしようか……と雑誌を睨みつける。
食を取るか、景色を取るか、はたまた両方か。
こればかりは侑生にも意見を聞いた方がいい。
自分の行きたい場所の名前がデカデカと書かれた雑誌を何冊か手に取った。
会計して、すぐに家に向かう。
家に着いて早速、買ってきた雑誌を読み漁る。
気になった場所をチェックして、リストにまとめた。
それを終えると丁度昼ご飯の時間になっていて、簡単なチャーハンを作って一人で食べる。
ピコン、とスマホが音を立てて、画面を見ると侑生からメッセージが入っていた。
「お、二時には帰ってくるのか。」
どうやら予定よりもずっと早く帰ってこられるようで、文面からも嬉しそうなのが伝わってきた。
帰ってきたら早速、旅行の話をしてみよう。
空になった食器を片付け、やることも無いからと侑生が帰ってくるまでの間を昼寝に費やすことにした。
■■■
「洸ちゃーん?おかえりなさいのキスは?」
肩を揺らされ、目を開けるとそこには恋人が。
あれ、もう二時……?なんて思いつつ体を起こして侑生にもたれ掛かる。
「おかえり」
「キスしてくれるんじゃないの?」
「先に歯磨きしてくる……昼飯食ってそのまま」
「気にしないのに」
「俺が気になる」
立ち上がって洗面所に行き歯を磨く。
その間ももはや背後霊のように着いてくる侑生。俺の腹に手を回して「洸ちゃーん」と何度も名前を呼ぶから、眉間に皺が寄る。
歯磨きを終えて口を拭く。
「何」
「テーブルの上に旅行雑誌がいっぱいあった。あれ、なあに?」
「侑生と行こうと思って」
「買いに行ったの?」
「うん。どれも俺の行きたいところだから、その中から侑生の行きたいと思ったところに行こうかなって。」
リビングに戻りながらそう言うと、侑生は綺麗な笑顔を見せてきた。
「そろそろいい?ただいま、洸ちゃん」
「ん、おかえり」
そう言って触れるだけのキスをすると、それだけで満足したみたいでストンと椅子に座り雑誌を眺める。
「でも何で急に旅行?」
「今朝テレビで特集やってて」
「ふーん?たまにそんな番組見るけど、今までは言わなかったじゃん。」
「仕事辞めて暇になったら行きたいなって思って」
他意はない。
いや、本当は思い出作りという理由があるけれども。
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