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第23話
髪と体を洗っているうちにお風呂が湧いて、侑生と浸かる。
侑生は俺のお腹に手を回してフンフン鼻歌を歌っていて機嫌がいい。
「あ、洸ちゃん。俺ね、やっぱり洸ちゃんに働いて欲しくないなって思うんだけど、無理そう?」
「なんだよ。働くって言ってるだろ。それに紹介してくれるって言ってたじゃん」
「まあ、そうなんだけど……。さっき洸ちゃんが見た、俺と一緒にいた女性いるでしょ?あの人、洸ちゃんに紹介しようと思ってた会社の専務さん。ちょうど人が足りないって嘆いてたからどうかなって思ったんだけど……」
「……侑生ごめん。そこでは働けそうにない」
「うん。働くのやめようね」
「働くのはやめない!」
嫉妬した人の下につくのは、気まずい。
相手は知らないにしても、俺がそこに長くいるとなると、やはり居心地のいい場所がいい。
「うーん、まあ、ゆっくり考えようよ。とりあえず洸ちゃんは休んでさ、場所が決まれば働けばいいんだし、しばらくは、ね。」
「うん。……折角考えてくれたのに、ごめん。」
「いいんだよ。謝るの、もう終わりね。」
侑生がそう言って項に唇で触れた。
ドキッとして体が固まる。
「んっ、侑生、それ嫌だ」
「……はーい」
すぐに唇が離されてホッとした。
段々と暑くなってきて「あがる」と言えば侑生も当たり前のように同じタイミングで湯船からあがり、軽くシャワーで体を流してからお風呂場を出る。
甲斐甲斐しく俺の体を拭いた侑生は、服を着ると俺をソファーに座らせて、寝室に行きベッドを整えに行った。
少し待っていれば戻ってきた彼は、俺の隣に座ってピッタリと引っ付いてくる。
「何?」
「明日からもしばらくは洸ちゃんがいてくれるんだって思うと嬉しくて。行ってらっしゃいもお帰りも言ってもらえるでしょ?それってすごく幸せ。最近は特に、仕事が仕事だから、こんなに幸せでいいのかなって思う時がある。」
「……」
「いつかこの幸せが崩れそうな気がしてちょっと怖い。……あ、でも洸ちゃんは安心してね。もし俺が死んでも、洸ちゃんが困らないようにしてるからね。」
突然、侑生が死んだ時の話をされて巫山戯るなと勝手に口から言葉が出ていきそうだった。
それを飲み込んで、冷静に口を開く。
「死ぬなんて許さない。後追われたくなかったら死ぬな」
「ふふ、俺が死んだらあと追うの?死んだ後の事だから俺は止められないけどさ、ちゃんと俺の死体を見て本当に死んだかどうか確認してからにしてね。監禁されてるだけかもしれないでしょ?」
「……そこはそんな事しないでって止めるんじゃないのか?」
まさか、後を追うことを許されると思っていなかった。
すると彼はキョトンとして、「止めないよ」と言う。
「だって俺、死んだ後も洸ちゃんと一緒にいたい。……まあ、ただの我儘だけどね。」
苦笑する彼に愛おしさが増して、思わずギュッと彼に飛びつくようにして抱き締めた。
「いいよ。そんな我儘なら叶えてあげる。先に死んじゃった侑生が寂しくないように」
「ん」
背中に回される手。
顔を上げてじっと見つめ合い、唇を重ねる。
いつだって俺のことを考えて、一緒に生きてくれる侑生が言う愛しい我儘は全く嫌じゃない。
「でも、俺が先に死んでも後追うなよ。俺は待ってるから」
「えぇ……寂しくないわけ?」
「死んだあとのことは知らん。でも、待ってる。」
「ふふ、うん。わかった」
もう一度キスをして体を離す。
その日の夜、旅行の話に加え、どこに就職するのが一番良いのかを考えるのに、長い間二人で話し合った。
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