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第25話
「洸ちゃん……」
「んっ、ぐぅ……!苦しい……!」
侑生はそのまま部屋に入ってきて、俺を強く抱きしめた。ただ、力の加減を誤っていて、抱きしめられて嬉しいよりも苦しいが勝り、ギブアップを伝えるために腕を何度もタップする。
「ゆう、ゆ、っ、侑生っ!!いい加減にしろ!!」
「っ!」
振り絞って怒鳴れば、侑生は慌てた手を離す。
「……ごめんなさい」
「はぁ……ううん。俺が言いすぎた。侑生は謝らなくていいよ。ごめん。」
「……あの……よかったら、俺と一緒に服、買いに行かない……?」
魅力的な提案だけれど、今は行きたくなくて、そっと侑生の背中に手を回し深く息を吐く。
「洸ちゃん?」
「今は、侑生と二人きりでいたい。」
スリ、と胸に頬擦りすれば侑生も俺の背中に手を回して、優しく撫でられる。
ポロ、っと涙が溢れて、侑生の服を濡らした。
「洸ちゃん、どうしたの。泣いてるの?」
「いや、なんか、最近、なんでもないのに泣けてきて……」
そう言うと彼はピタリと動きを止める。不思議に思って顔を上げると、また目からハイライトが消えていた。
慌てて侑生の手を掴み名前を呼ぶ。
「侑生、何、何考えてんの」
「パワハラ野郎にどう落とし前をつけさせようかなって」
「野郎とか言わない!」
「パワハラ糞爺」
「侑生!」
綺麗な顔から発される言葉じゃない。
侑生の口を片手で塞ぎ「ダメ!」と言うと、侑生の手が口を塞いでいた俺の手を掴んだ。
「だって、洸ちゃんをずっと苦しめてる。ようやく辞めれたのに、心の傷が深くて辛そうだ。」
「俺は侑生がいるから大丈夫だよ」
「俺が一緒にいてあげられない時だってあるよ。そしたら洸は一人で泣くの?そんなの俺が我慢できない。洸が悲しくて辛い時こそ一緒にいないと、彼氏の意味がない。」
真剣な顔で、俺の頬を撫でてそう言った彼に胸がドキッとした。
マイナスな気持ちに嬉しさが混ざって複雑な感情が心をグルグルとしている。
「侑生が彼氏でよかった」
「ん、何それ、すごく嬉しい。でも洸ちゃん。話よりも先に、涙まだ止まってないよ。おいで」
手を引かれ、ソファーに座ろうとしたところを止められて、先に座っていた侑生の膝の上に向かい合わせになって座った。
考えることができなくて、侑生に凭れかかり呼吸をする。
「洸ちゃん、俺ずっとこうしてるから、洸ちゃんが思ってること全部吐き出して。」
とん、とん、背中を軽く叩かれる。
侑生の首に腕をまわし、首筋に顔を埋める。
「……誰にも言ってなかったんだけど」
「うん」
彼の顔を見て話すのは少し気が引けて、その体勢のままゆっくりと言葉を落とす。
「最近は、パワハラだけじゃなかった。」
「……」
「トイレでたまたま出会した時、尻触られたり、腰撫でられたりして、気持ち悪かった。」
「……ちっ」
短い舌打ちが聞こえて、大きく体が跳ねる。
侑生に伝えたら怒られるかもしれないから言っていなかったけれど、やっぱり伝えない方がよかったのか。
「ごめん、嫌なこと言った。忘れて」
「忘れられるわけないだろ」
「俺はもう大丈夫だから。仕事は辞めたし、もう会うことはないだろ。」
そう言うと俺の顔を見ようとしているのか、腕を離させようとするので、腕に力を入れて離れられないようにした。
「洸、顔見せて。お願い」
「……フワフワモードな侑生になら見せる」
「フワフワしてられると思う?」
「思わないから見せない」
また舌打ちが聞こえる。どうしよう。いつまでもこんなことしてられないし、かといって怖い顔を見せられるのも嫌だ。
「侑生、頼むから怒らないで。」
「怒ってないよ。大丈夫。ほら見て。俺、もうフワフワしてるでしょ?」
声色は柔らかくなった。恐る恐る腕の力を緩めて彼を見ると、表情も優しかった。
「洸ちゃん。詳しく話聞かせてくれる?」
「……でも気分のいい話じゃないよ」
「洸ちゃんが話せるなら、聞きたいな。」
「うー……」
嫌になったら途中でも止めるから。そう言って上司にされていたことを全て、洗いざらい吐き出した。
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