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第33話

胸の辺りがもぞもぞする。 目を開けると侑生が俺を胸元から見上げていた。 「……おはよ」 「おはよぉ。洸ちゃん、ごめん。離してくれる……?」 「……今何時」 「朝の三時」 「寝ろ」 ぎゅっと侑生の頭を抱える腕の力を強くすると、モゴモゴ言いながら抵抗している。 プハッと何とか抜け出して顔を上げた侑生は苦笑を零した。 「洸ちゃん、お願い。仕事に行かなきゃ」 「お前、熱あるだろ」 「もう治ったよ」 「……嘘つくな」 睨みつけるけど、腕の力は緩めていく。 仕方がない。侑生だって仕事だ。 侑生を離すと、彼は起き上がって俺のお腹をポンポンと撫でた。 「ありがとう」 「……無理はしないで」 「うん」 「早く帰ってくる?」 「そうだね。今日は早く帰るよ」 「約束」 「約束ね」 小指を絡ませ、そのまま恋人繋ぎをする。 行ってほしくない。ゆっくり休んでほしい。 「お風呂、入ってくるよ。」 「……背中流そうか?」 「今日はダメ。家にいたくなっちゃう」 彼はそう言って手を解き、着替えを持って部屋を出て行った。 体を起こして、胸の中に生まれる寂しさをどうやって処理しようか考え、やっぱりどうしても侑生が必要だと再確認する。 お風呂から出てくるのを待っていようとリビングに出た。 十五分ほどで戻ってきた侑生。 やはりどこか気だるげだ。 「今から行くところは危なくないところ?」 「んー、秘密。」 ……つまり、危ないということか。 そう予想してグッと眉間に力が入る。 「怪我しないって約束しろ」 「え……早く帰ってくる約束だけじゃダメ?俺、できない約束はしたくない主義なんだよね。」 「は?怪我するのか?」 巫山戯るなよ、とそんな気持ちを込めて問いかけると侑生は顔を引き攣らせた。 「しないように頑張る」 「よし。まだもう少し時間ある?」 「うん。三十分くらいは。なあに?何かするの?」 ソファーに彼を座らせ、俺も少し距離を空けたところに腰を下ろす。 キョトンとする侑生の肩を引き寄せて、傾く体を支えながらそっと寝転ばせると、丁度侑生の頭が俺の膝に乗った。 「……わ、膝枕……」 「ちょっとだけ寝て。二十分で起こすから」 「洸ちゃんの膝で眠れるなんて……贅沢だ」 「こんな膝ならいつでも貸すから、とにかく黙って目瞑って。」 目をギンギンに開く侑生。 見上げてくるその視線が今は鬱陶しい。 「……侑生、もしかして目の瞑り方知らないのか。」 「ん、ふふ……そんなわけないじゃん」 肩を震わせて笑う彼は、目元を手で覆ってやるとようやく大人しく眠る気になったみたいで話すことをやめた。空いていた反対の手は侑生の手と繋いで、指を絡める。 この優しい時間が大好きなのに、もう少しで終わってしまう。終われば、侑生は家を出て俺はまた少しの間一人になる。 幸せなのに寂しい、そんな複雑な思いは誰に知られることもなく、時間はどんどん過ぎていった。

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