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第35話

カフェを出てプラプラ街を歩く。 昼食の時間になったけれど、フレンチトーストでまだお腹が膨れているから、ランチを食べるのはやめた。 服でも見ようとショッピングモールに来て、ウロウロしているとスマートフォンが震えた。 慌ててポケットから取り出して画面を見ると、侑生からメッセージが届いていた。 「……」 内容は、今日は帰れないというもの。 俺のフレンチトーストへの反応は全くない。 「……うん。これ、侑生じゃないな。」 おかげで、このメッセージは侑生が書いたものでは無いとわかる。 侑生なら絶対、忙しくても俺の送ったメッセージの内容にしっかり返事をしてくれるから。 「誰だお前」 疑問を一つ呟き、それから侑生のスマートフォンを操作する誰かに電話を掛けた。 わざわざ俺に帰れないと連絡してくるってことは、相手は俺と侑生が一緒に暮らしているのを知っている部下さんくらいだ。 何コールか繰り返し、ようやく繋がった電話。 「──もしもし」 「……わざわざ侑生のフリをしてどうしたんですか。」 案の定、侑生の声では無い。 相手は戸惑っている様子で、それはそうだろうな、と一人頷く。 「すみません。えっと……俺は前洸さんと若をお送りした運転手で、若の部下です。」 「ああ……はい。その節はありがとうございました。ところで、どうして部下さんが……?」 「……若には言うなと言われたんですが……、若が怪我をしました。体調も悪かったようで倒れてしまい、今病院にいます。暫くは入院の予定で……」 すぐにショッピングモールの出口に向かって歩き、タクシー乗り場でそれに飛び乗った。 病院の名前を聞き出して、それから何があったのかの説明をさせる。 「若の体調が優れないと気が付きませんでした。俺にはいつも通りにしか見えなくて……。それで、俺も若も反応に遅れて今朝方、車に乗るところだった若が刺されました。」 「……」 「医者が言うには『上手いこと刺されたようで致命傷は避けている』と」 「意識はありますか」 「つい先程目を覚まされて、洸さんに今日は帰れないと連絡をしておいてくれと頼まれました。」 ふー……、と深く息を吐く。 心を落ち着かせたかった。 侑生が刺されたこと それを俺に言うなと言ったこと 怒りのボルテージがどんどん上がっていく。 病院に着いた頃には怒りを通り越して冷静になり、しばらく心配しなくて済むようにいっその事別居でもしようかなという考えにまで至った。

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