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第36話

病院の出入口に部下さんが居た。 俺を見ると頭を下げて、気まずそうに目を逸らしている。 「お疲れ様です。早速ですが、侑生の所に案内して貰えますか。」 「はい……。こちらです」 案内をされて特別室と思わしき病室に案内された。 ドアの前には強面の男性が二人。 ノックをするのも嫌で、思い切ってドアを開けると後ろから部下さん達の「ヒッ」という短い悲鳴が聞こえたけど無視だ。 うるさい足音をわざと出し、近くに行くと彼の鋭い視線が向けられた。 「あ?誰だ──あぇ……洸ちゃん……?」 直ぐにその鋭さはなくなり、キョトンとした表情を見せてくる。 それが余計に腹立って、気がつけばスルスルと言葉が口からこぼれていた。 「今日は帰れないって連絡が来たけど、今日だけじゃ無さそうだな。そのまま帰ってくるな」 「え?ぇ……あ、洸ちゃん怒ってる、待って、ちょっと頭回らないんだ今……」 「別居します」 「べっきょ……?」 ナニソレ。みたいな顔をするな。 俺からすればこの状況が「ナニ?」なんだよ。 「何でわざわざ怪我したことを隠したんだ。しかも擦り傷なんかじゃない。刺されたんだろ。それを隠す意味がわからない。俺たちの関係って何?」 「え……っと、俺達は、恋人同士で……」 「わかってるなら何で隠すわけ?」 「ん……俺達の仕事なら大したことないんだけど、ほら……洸ちゃんが、心配すると思って……。」 胸倉を掴みそうになって、慌てて体を止める。 いけない。相手は怪我人だった。 「心配するに決まってるだろ!!」 「ゎ……」 「お前、俺が怪我して、それ隠してて許せるのか!?」 「無理……です。」 「ただの怪我ならまだしも、刺されたら!?」 「相手をころ……ん、見つけ出します。」 「そうだろうが。何で……そういうこと、俺に言われなきゃわかんないの。隠されたら余計心配になるって、わかってくれないの。」 目頭が熱くなって、涙が溢れた。 胸が苦しくて、唇を噛み静かに泣く。 侑生の世界なら少なくない出来事なのかもしれない。 でも一緒に暮らしている以上、俺の気持ちだって分かってほしい。 「洸ちゃん……」 「俺、ワガママ言ってる……?」 「ううん。ごめんなさい。俺が間違ってた」 侑生の手が俺に向かって伸ばされる。 起き上がることができないようで、そんな状態なのに怒鳴ったことが今更ながら申し訳なくなった。 彼の手を掴めば、キュッと握られる。 「ごめんなさい。次からは隠さないから」 「……うん。俺も。体辛いのに大声出してごめん。」 そうして話していると部屋がノックされて看護師さんが入ってきた。 そして「病院では静かにしてください」と怒られてしまい、侑生と二人でハッとしながら慌てて謝った。

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