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第55話

侑生side ■■■ 嫌だな、と思う。 部下からの電話で報告を聞いてすぐ、深く溜息を吐く。 被せるように今後の対策をどうするかと、回答を急かしてきた相手に若干の腹立たしさを覚えながらも、落ち着いて返事をした。 「……また連絡する。」 そう言って通話を切り、続けて溜息を吐く。 ただの勢力争いだった。 今回の件は俺達と敵対している組が仕掛けてきた事。 洸は俺のイロだと情報が漏れた。 洸という弱味を握り俺に揺さぶりをかけようとしている。 つまり、今後洸に何が起きてもおかしくない。 家もバレていない方がおかしい。もしかすると洸の生活サイクルまでも把握しているのかもしれない。 「……クソッ」 今すぐにでもここを出て実家で囲うのが安全だ。 窮屈な思いをさせてしまうけれど、傷つけられるよりずっといい。 リビングに戻り、早速話をしようとソファーにいる彼を見て思わず拍子抜けた。 ぐっすりと幸せそうに眠っている。 急いでブランケットを持ってきて体が冷えないようにそれで包んだ。 「洸ちゃん、ごめんね。」 幸せそうなその顔を歪ませてしまうんだろうな。 そんな顔させたくないのに、自分の意思とは裏腹に辛い思いをさせてしまうのが心苦しい。 「ん、ぅ……ゆぅ……?」 「あ、ごめん、起こしちゃった。」 「ううん。電話、終わった?」 「うん。洸、話があるんだけど……」 「何……?」 ブランケットの中から彼の手が伸びてきて俺の手を掴む。 その手を握り返して、顔を上げるとぱっちりと目を開けた洸と視線が交わる。 「洸の事が敵対している組に漏れてる。きっとこの家もバレてて、洸の生活サイクルだって把握されてる。」 「……」 「洸を一番安全なところに、今から連れて行く。」 「侑生は?」 「俺も行くよ。この家にはもう帰ってこないと思うから、すぐに荷物纏めて。必要な物だけ持って行こう」 「……わかった」 洸は何も聞かずにゆっくりと立ち上がった。 握っていた手に思わず力を込める。 あまりにも潔が良かったからか、唐突に不安になった。 「侑生?」 「……迷惑掛けてごめん」 迷惑を掛けられて内心呆れてるのかもしれない。 というよりも諦めているのかも。 「何言ってんの。迷惑だとか、そういうこと考えなくていいから侑生も早く荷物纏めて。」 繋いでいた手に空いていた手を重ねられ、やんわりと離すように促してくる。それに抵抗せずに手を離し彼を見上げると俺を見て口角を上げていた。 「安心しろ。俺は侑生を嫌いにならない」 「っ」 俺の不安を見透かして安心できる言葉をくれる彼。 そんな洸を絶対に守りきろうと強く決意した。

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