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第56話
荷物を纏め、侑生に連れられて彼の実家に来た。
久しぶりに訪れたそこは昔から変わらず見た目が厳つい。
「洸ちゃん、こっち。」
「あ、うん。」
ポケーっと呆けていると侑生が俺の手を掴んでスタスタ歩きだす。
建物の中、そのまた中に入っていく彼。複雑な道順で一度歩いただけでは覚えられない。一人で外に出れなさそうだなと悠長なことを考えている間に目的地に着いたらしい。
中に入れば一人暮らしのワンルームよりはもう少し広い、そんな部屋があった。
「洸ちゃんはしばらくここの部屋で待機。トイレはこのドアで、お風呂はこっちね。この部屋のは好きに使って。」
「……ん?侑生は?」
「俺は別のところにいるよ。キッチンはあるけどご飯は持ってくるからね。あ、寝る時は一緒ね。」
「俺って、隔離されるんだ。知らなかった」
「あぁー!そんな顔しないで。大丈夫!落ち着くまでだから!新しい家も一緒に探そうね。」
落ち着くまでって具体的にいつまでだ。そんな言葉が口から出そうになって飲み込む。
代わりに俯いて、侑生の手強く握った。
「……ごめんね。」
侑生が申し訳なさそうな声で謝ってくる。
それに首を振って顔を上げた。
「新しい家、前と同じくらいの広さじゃないと嫌だから。広い家はやめろよ。」
「……そう言えば一緒に暮らすってなった時も広い家は嫌って言ってたね。洸は広いの嫌?」
「広いのが嫌っていうか……侑生とくっつくのに理由がいるような家は嫌だ。」
「……あはは、俺とくっつくのに理由はいらないだろ!」
俺を抱きしめて笑いだした彼に、あまりにも恥ずかしいことを言ったのではないかと思って、思わず拳を握り侑生の横腹をドスンと殴る。
「うっ!ぇ、い、痛い……」
「ほ、本当は掃除が大変だから嫌なだけ!」
横腹を押さえてビックリしている侑生を見上げ睨みつけた。
それでも彼は笑っていて。
「なんだよ!」
「掃除はいつも、俺がしてるじゃんっ」
「……俺だって、たまにはするし……」
「あはは」
侑生は一頻り笑うと落ち着いたようで、微笑んで俺を見つめたかと思うとキスをしてきた。
そして直ぐに離れると部屋を出ていこうとする。
「待っててね、洸ちゃん。」
「……うん」
そして部屋には俺一人になった。
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