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第61話
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翌日の朝、珍しく仕事に向かわずに部屋にいた侑生が「あ、そろそろ来る」と言いだした。
何が?と思っていると部屋にノック音が響いて、侑生が「入れ」と一言。そうすればドアが開いた。
「失礼します。侑生さん、洸さん、おはようございます。」
「おはよう」
「え、ぁ……おはようございます……?」
立っていたのは黒髪の優しそうな男性。
タレ目のせいか甘い雰囲気がする。
「洸ちゃんが話し相手が欲しいって言うから呼びました。百瀬 瑛太 君。二十五歳です。百ちゃんって呼んであげて」
「も、ももちゃん……」
「はい。百です。」
「百ちゃんは俺がいない間来てくれるよ。」
「ありがとう……」
侑生は俺に百ちゃんを紹介すると仕事に行ってしまった。
せめて少し仲良くなってから行ってくれ!と思いながら百ちゃんに向き直った。
「あのー……俺正直、何をすればいいかわからなくて、今朝侑生さんから電話があって来ただけなので……。」
「あ、そ、そうですよね。本当ごめんなさい。俺がずっとここに一人でいるの退屈で、話し相手が欲しいって侑生に言ったから……。」
「そうなんですね。いや、全然いいんですよ。一人って寂しいですしね。」
見た目だけじゃなく、内面も優しいのか寄り添ってくれるような言葉になんだか胸がスッとした。
「そう!ここに来ることになった時はまさか一人になるとは思ってなくて……。よくよく考えたらそりゃ侑生が動かないといけないよなとはなったんだけど、それでも寂しいものは寂しい……。」
「おお……。そういうのって侑生さんに伝えるんですか?」
「いや、流石に……。侑生の負担になるようなことはしたくないから」
「想い想われですねぇ。侑生さんも俺に電話をしてきた時葛藤してましたよ。『本当は百と二人きりにさせるのは嫌なんだけど、でも洸が寂しがるから……』って悔しそうに言ってました。」
侑生の真似をしているつもりなのか、表情や声をコロコロ変える百ちゃん。面白いが、似てはいない。
しかもそれ、ぶっちゃけて大丈夫なことなのか。
まあ昨日、本人から言われた内容と同じだから問題無いか。
「侑生さんって普段冷たいのに洸さんの事となるとすごく真剣で。だから洸さんのこと大好きなんだなぁって起き抜けに思わされました。」
「……朝早くから申し訳ないです」
「あ、いえ、それは全く気にしないでください。」
両手を前に出して『謝らないで』のポーズを取った彼に『有難い』と拝んでおいた。
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