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第63話
大分昔、この家に遊びに来たことがある。
侑生は俺を家に招くのを少し躊躇していた。
厳つい門を見たら怖くなって逃げ出すと思ったらしく怯えていたようだが、小さかった俺は無知だったので「カッケー!」と言ってはしゃぎ倒した思い出がある。
社会人になってからはここに来るのも初めてだと思う。
昔は庭で侑生と二人、構成員さんを無理矢理誘って鬼ごっこをしたり隠れんぼをしたりした。
構成員さんは厳つい顔をした人が多かったので、鬼役になったその人に追いかけられて号泣していたような気もする。
「あー!外の空気!気持ちいい!」
「洸さん、もうちょっと建物側にいてください。」
「あ、はーい」
そんな庭に百ちゃんと、それから部屋の前にいた護衛の構成員さん──仲宗根 さんと出る。
少し強めの日差しが、いつもなら鬱陶しいのに今日は心地良い。
縁側に腰掛けて空を見ながら何をすることも無くぼんやりと過ごす。
「侑生は今日は一日外に出てるの?」
「いや、午後にはお戻りになると聞いてますが。」
「そっか。……この生活が始まってまだ少ししか経ってないけれど、侑生とどこかに出掛けたいな。」
「例えばどこに?」
「えー……、あ、温泉。実は前に話をしてたんだよね。」
「いいですねえ。温泉か……俺も入りたくなってきた。今日の風呂に入浴剤入れよ。」
「いいね。俺も侑生に頼もっと」
「持ってきますよ。」
「え、嘘、本当?いいの?」
「もちろん」
百ちゃんはそう言うと「ちょっと待っててくださいね」と立ち上がり、俺と仲宗根さんの二人になった。
仲宗根さんは寡黙な人だ。俺より少し歳が上だと思われる。
「あの、仲宗根さんはおいくつですか。」
「二十五です。」
「……え!?」
「百と同い歳です」
「……み、見えない……」
「はい。いつも三十は過ぎてるって言われます」
言いながら、少しショックだったのか肩を落とした彼。
何とかフォローをしようと慌てて言葉を探すけれど、何も見つからずに撃沈する。
「だから、あの……俺にも百相手のように話してもらえると助かります。」
「ぁ……はい……」
「日差し、眩しくないですか。もう少しこっちに来ませんか。」
「あ、ありがとうございます」
緊張しつつ仲宗根さんの方に寄って影に入る。
じーっと庭を眺めて鳥の鳴き声を聞いていた。
「──だーれだ!」
「っ!」
すると突然視界が遮られる。
大きな、少しひんやりとした気持ちのいい手。
幾度となく嗅いだことのある優しい匂い。
「侑生」
「大正解!」
目を塞いでいた手が離される。途端唇にふにっとキスをされてパチパチとゆっくり大きく二回瞬きをした。
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