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ep.8

 叔父に無理矢理幼い身体を開かされて、何度も何度も犯されて、子どもが知らなくていい世界を散々教えられて──あの時の叔父からするαの匂いが大嫌いだった……。  妊娠したと知った時、当然ながら恐怖した。  叔父がしていたことは本来なら子どもを作るためのものだった──アーチボルドは13にして自分が産まれてきたはじまりをまさに身を持って思い知らされたのだ──。  自分の父親がしたように自分もこの子どもを捨てるのか殺すのかと怯えた──  だけど愛せない……叔父との間に無理矢理生まれたこの命を愛せだなんてあまりにも残酷すぎる──恐ろし過ぎて自分自身の命が先に潰れてしまいそうだった──。  何も考えられなくなったアーチボルドは寝巻きのまま叔父の家を飛び出し、気が付いたら冬の海にいた──  海に吸い込まれるように柔らかな雪が静かに降っていて、靴を履くのも忘れた素足が真っ赤になっていたけれど、もうなんの痛みすら感じなかった。  お腹の子どもと一緒に魚の餌になって海に溶けてしまいたいと思った──もう苦しみたくない。  そうすれば叔父から逃げ回ることも恐ろしい思いをすることも二度となくなる。恥ずかしくて後ろめたくて、叔母に言えずに苦しんだあの日々から──全てのものから解放される。 「お母さんに会いたい……」  ぽつりとそう溢すと、アーチボルドは泣きながら、そして薄く微笑みながら、ゆっくり凍える海の奥へと足を進めた──。 ──柊一が怖かったのは本当だ。  自分の身体の上で発情期(ラット)を迎え、激しく興奮している柊一が故郷(むかし)の叔父と重なる。  こわくてこわくて、身体が動かなかった──。  なのに、肩や髪から匂う彼の香りが叔父とは全く違った──。  αの、怖くて大きな男の身体──なのになぜか甘くて不思議と良い香りがする。  身体の中に柊一自身が割って入ると、深く繋がった場所がものすごく熱くて溶けそうで、全身に知らない感覚が駆け巡った。 ──しらない、しらない……  叔父と同じはずなのに、違う、ナニか──  柊一から伝わる知らないナニか──    自分の身体だけを求めてきているだけではないことを不確かだけれどΩの本能の奥で感じた──。  柊一の熱に感じたくないのに感じる──乱暴されているはずなのに、芯にある別の感情がアーチボルドを余計刺激して奥に潜む誰も知らないΩ(メス)が顔を出す。  柊一がする優しい愛撫、アーチボルドの閉ざした場所をやわらげる仕草、繰り返される深い口付け、耳朶に響くその低い声、その何もかもが怖いくらいに甘くてアーチボルドは余計に頭の中が混乱した。  αはΩを服従したいだけ──  性的道具に、玩具にしたいだけ──  愛してあっていない二人が身体を繋げることに意味なんてない──αだけがその性欲を満たしたいだけ──  なのに、どうして……  柊一が身体の中を巡るたび、触れてほしくない筈なのに、どこにも行かないでとそれを捕まえようとしてしまう。  アーチボルドが感じて声を出す場所を見つけると、嬉しそうに柊一は繰り返し撫でてくる。 ──どうして抱きしめるの? ──どうして嬉しそうに笑うの? ──しらない……ワカンナイ、こんなの違う……  憎むべきα相手に感じて悶える自分なんて信じたくない。こんなことされて声なんて出したくない。    嫌だ、いや、イヤ── ──あの時、意識を失った瞬間、アーチボルドは理解しがたい、認めたくない自身の感情も記憶も全て身体の一番奥底に閉じ込めあの冷たい夜の海の中に沈めた──。

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