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ep.10
自身の部屋にアーチボルドを招き入れた途端その細い身体を軽々と持ち上げてベッドまで運び、耳朶まで赤く染めたアーチボルドの頬を愛しそうに撫でると羞恥で潤んだ青い瞳と視線が交わる。
あまりの無防備な可愛さに柊一は再び心臓が破裂するかと思った。このまま見つめ合っていたらそのまま死んでしまう気がしたので慌てて瞼を強く閉じ、かわりにその甘い唇を何度も味わった。
はじめは優しかった柊一も次第に興奮した狼のように豹変しはじめ、アーチボルドの服をさっさと脱がすとその白い肌のあらゆる場所へと吸い付いた。
「しゅいち……ま、待って、ゆっくり……」
怖がらせたくないのに一度その甘い肌を味わうと止まらなくて、柊一は枕元にハサミやカッターをありったけ並べて何かあったら構わず自分を刺せとアーチボルドに本気で言い放った。
甘いキスも強いキスも今 のアーチボルドにはどれもたまらなく気持ち良くて、まるで毎夜見ていたあの夢のつづきのようだった──。
あんなにαに触られるのが恐ろしかったはずなのに……今の柊一に触られるのは嘘みたいに少しも怖くない、それどころかずっとこうされるのを待ち望んでいた自分がここにいる──。
「ねぇ……赤ちゃん作る?」
熱に浮かされた瞳で柊一がアーチボルドに尋ねるが、真剣に怒った表情でペチリとその頬を軽くぶたれた。
「本気だよ、俺。アーチーとのこどもが欲しい……アーチーとたくさん家族作って、死ぬまでずっとアーチーと一緒にいたい……」
お互い未成年のくせに、なんて無責任な事をこの男は言っているのかとアーチボルドは外面では怒っていたが、内心柊一の情熱的な愛の言葉に馬鹿みたいに心を揺さぶられていた──。
柊一はきっと、自分の父親や叔父とは全く違い、生まれてくる子どもを大切にするのだろうとなぜか強い確信がアーチボルドにはあった。
それを想像するだけでアーチボルドの胸は暖かくなって柊一に回した腕をさらに強くした。
そんな心の中の想いを映し出したかのように熱を帯びたアーチボルドの濡れた瞳がさっきよりその青を濃くしたように柊一には見えた。綺麗すぎて愛おしくてその身体を強く抱きしめては赤く濡れた唇を味わう。
「好きだよ、アーチー……」
耳元で聞こえる柊一の声は甘くて、優しくて、愛しくて──アーチボルドの警戒心も羞恥心も何もかもをあっという間に解かしてゆく──
大胆に開かせた白い太腿の間に柊一は頭を沈め、熱く長い舌をアーチボルドの中の深いところまで執拗に責めあげた。
「あっ、んんっ……だめ、あっ……ん」
素直に愛撫を感じる甘い声が何度もアーチボルドから出て、その度に柊一は脳味噌も下腹部もおかしくなりそうだった。
愛液でいやらしく濡れた場所へ柊一の長い指が入って来ると、アーチボルドの感じる場所を何度も掠め撫でては深く、奥の奥まで蹂躙する。
二本の指で何度も激しくそこを出し入れされて、アーチボルドは赤く染まった胸を大きく反らしてひときわ大きな嬌声をあげて達した。
「あっ……はぁ、あ……」
久しぶりに感じた強い快感の余韻に浸っていると、突然太く大きな熱の塊がそこへ割り入ってきて、アーチボルドは先の部分を咥えただけでおかしくなりそうだった。思わず反射的に怯えた身体が後ろへ逃げてしまう。
「アーチー……、お願い……中に入れて……」
柊一はアーチボルドの強い香りにすっかり酔いしれ、それでも絶対に怖がらせたくなくて、アーチボルドがたくさん気持ちよくなるようにと限界にあった欲望を必死に殺して抑え込んでいた──。そんな優しい柊一の願いを叶えるためにもアーチボルドは小さく頷くと、息を吐いて少しずつ柊一の逞しい雄を受け入れてゆく。
少し先を飲んだだけなのに身体の中への圧迫感がものすごくて、アーチボルドは柊一がゆっくり中へ進むだけで嘘みたいに刺激されてしまって、柊一を包む場所を無意識に何度もいやらしく畝らせ濡らした。
「しゅ……いち……」
舌ったらずなアーチボルドの唇を捕まえて、何度もその中を激しく犯し続ける。
一気に穿ちつけたい強い欲望を押し殺して、ゆっくりと最後まで進んだ柊一は、ようやくアーチボルドの一番身体の深い場所まで辿り着き、幸せそうに深くため息をついた。
「……柊一の……ぜんぶ、入った……?」
人が必死に堪えているというのに、目の前で瞳が潤んだ可愛いΩは殺し文句を簡単に吐く。
「も、なんなの……それェ……」
「あっ、喋っ……たら、奥……あたる……」
「コラッ、それ以上煽るの禁止っ!」
臨界状態だった柊一はその言葉でとうとうボーダーラインを突き抜け、抑えていた気持ちの反動のあまり強くアーチボルドへと腰を打ち付けた。
悲鳴に似た嬌声がアーチボルドから上がるが、決してその声色に恐怖はなかった。
アーチボルドの細い指を捕まえて、強く握り締めると、アーチボルドも返してくれた。
両手を繋いで口付けを繰り返しながら柊一は何度も何度も自分自身をアーチボルドの奥深くへと打ち付ける。
「あっあっ……あぁっ、深……い、痛ッ……」
「痛いっ? ごめんっ」と、慌てて柊一はアーチボルドの中から簡単にいなくなろうとするのでアーチボルドはなんて野暮な男なんだと腹が立ったのか、両足を柊一の腰に大胆に巻きつけてきた。
「これ、くらいは……大丈夫だから、もっと、しろ……っ、今……のも、すごく気持ち良かったからっ」
ハッキリこうでも言わないと柊一は最後まで絶対に自分を抱かないと理解したアーチボルドは恥も何もかもを捨ててきちんと思いを伝えるしかなかった。
ずっと待ち望んでいた関係のはずなのにムードもくそもない、とアーチボルドはやや悲しくなった。
でもそれが柊一の心の中に存在している、αの本能を超えた真の優しさなのだと理解すると、なんだかますますこの男を好きになってしまっていた──。
──悔しい、この男はきっと、もっと自分を変えてしまう。
アーチボルドにはそんな近い未来を容易に想像できた──。
「あっあ……そこ……っ、もっとしてっ……」
アーチボルドは我を忘れて柊一がくれる甘くて強い快感に無意識に腰を揺らしながら深く溺れていた。
「痛くない? 大丈夫? 気持ちい……?」
「うん、うん……っ」
もっとして、もっと、とアーチボルドは恥ずかしげも無く何度もうわ言のように繰り返した。
「ど……しよ、中に出したい……ねぇ、アーチー出していい?」
「だ、だめ……」
泣きながらかぶりを振るアーチボルドにそれでも柊一は何度も懇願を繰り返す。
「ほんと、に……妊娠しちゃう……から、だめ……」
「妊娠したら……その子俺に頂戴……俺がアーチーの赤ちゃん育てる、から……」
「──馬鹿……」
まわりが聞けば無責任で愚かに思えるその言葉も、柊一には本心なのだ──。もしもアーチボルドが手に入らないのなら、せめてその分身だけでも自分にくれと本気で思うような男なのだ──。
「好きだよ、アーチー……大好きだ」
許可なんて出してないのに、柊一は形を変えた雄をアーチボルドの中に深く沈めると、息を詰めて全てをその中に注ぎ込んだ。
「──おれ、も……好き……」
アーチボルドは泣きながら身体の奥の熱を感じて再び達した。
それからも柊一はアーチボルドの全てを自分のものにするみたいに何度も貪っては奥深くまで愛して、アーチボルドの中に全てを注ぎ込んだ。
アーチボルドはぼんやりしながら柊一に背中を向けたままベッドに横になり、下腹部に手を当てていた。
まだ中に柊一の熱の余韻があって、すごく不思議な感覚だった──。
「……ごめん。怒った、よな?」
背後から柊一がアーチボルドの身体を包むように優しく抱き締めてその肩に顎を乗せた。
「……怒る……って、なにを?」
「その、中に……した、から」
「ああ……、けどもう途中からは俺も訳わかんなくなってたし……」
「それは……アーチーがヒートだったから抵抗できなかっただけで……」
「それはお前も同じだろ、俺がヒートだから引っ張られて本能的にしたんだ……お前一人のせいじゃないよ──」
アーチボルドはさっきから抑揚のない声でずっと話していて、柊一は少し心配になった。
「大丈夫? 怖い、の……?」
「何が──?」
「妊娠……」
少しだけアーチボルドの瞳が揺れたが、それでもアーチボルドはぼんやりした声で「怖くない」とだけ答えた。
「本当は出来るかどうかもわからないんだ……俺が子どもの産めないΩだったらお前どうする?」
「──質問の意味がわからない……」
アーチボルドは素直に自分の日本語がおかしかったのかと思い、顔を上げて柊一を見た。
思ったよりそれは近くにあって、アーチボルドは今更ながら自分をまっすぐ見つめる茶色い瞳にドキリとした。
「え……と、だから」
「俺がアーチーとの赤ちゃん欲しいって言ったから?
俺がこどもたくさん欲しいって言ったから? アーチーのこと傷付けたなら本気で謝る。無神経だった……ごめんなさい……だけど、それはもしそうなればアーチーはずっとそばにいてくれるんじゃないかって……そうなればアーチーが俺のこと選んでくれるんじゃないかって……一縷の望みに縋った……」
ひどく苦しそうに柊一は顔を歪めてアーチボルドの肩口に顔を埋めた。回された手がさっきより力強くてアーチボルドは少し鼓動が早くなるのがわかった。
「……αなのに……そんなこというのかお前……やっぱり変わってる、柊一は……」
「何が──好きな人に選ばれたいと思うことがそんなにおかしい?」
「おかしいよ……俺の女にしてやるとか最初言ってたくせに……」
「ほじくり返すなよっ、俺の黒歴史っ! あれはあんまりにもアーチーが俺に興味ないから腹立って……」
「ないこと、なかった……よ。お前はいやでも目立ってたし、校内でも目についた……」
「“目につく“は、別に良い意味の日本語じゃないぞ」
少しだけ声に張りの出た柊一が顔を上げてアーチボルドを恨めしそうに見つめると、青い瞳が緩い弧を描いて優しく微笑んでいた。
「俺は……日本人の倍勉強が必要たったから……僻みみたいな気持ちでお前たちのこと見てた……ああいう他愛もない時間をお前と近くなるまでは誰とも持ったことなかったから……」
「アーチボルドが俺らのこと見て羨ましいって思ってたの?」
「思ってたよ、多分。自覚はなかったけど……お前と毎日一緒に過ごしてみて今は充実してるのがすごくわかるから……その上お前は勉強もできるし教えるのも上手いしすごく助かってる……」
「俺が優しくて親切なのはアーチーが好きだからだよ。どんな友達よりもアーチーが一番大切だからだ」
「俺だって……こんなに自分のことさらけ出せるのはお前が特別だからだ」
「えっ」
アーチボルドのサラッとした大告白に柊一は目を丸くしたが、当の本人は特に顔色ひとつ変わった様子もなかった。
「なんだ──俺のこと単に欲求不満のΩだとでも思ってたのか?」
「思うわけないだろ! お前は大学内で難攻不落と名高いΩだぞ!」
「はあ? なんだそれは……友達がいないとそんな風に言われるのか……俺は単に外国人なだけでごく普通の人間だぞ──」
「いや、それはちょっと自分を知らなさすぎるかなぁ?」
──驚いたことにアーチボルドは自分自身のまわりからの評価を一切知らないのだ。それは元々自分自身に興味がないからとも言えた。それとも何かわかりやすい結果を出さないと自分自身に価値を見出せなかったのか──。
「アーチーって、不器用? 天然?」
「不器用、だよ。天然って……どういう意味の天然?」
「そうやって可愛い顔して首を傾げる意味の天然」
隙をついて柊一はアーチボルドに口付けた。
「本当可愛い、なんなのそれ。大好き、アーチー」
アーチボルドは大きな胸に包まれて顔の温度が一気に上がるのがわかった。柊一は思ってた以上に真っ直ぐに想いを伝えてくるから他人と、αと、接することを諦めていたアーチボルドにはなかなかハードルが高かった。
「柊一は……なんだか日本人らしくない……」
「ハッキリ愛してるって伝えないとアーチーには届かないからね、心の壁がなによりも分厚く出来てるから」
「……そんな、ことは、ない」
「じゃあ俺は壁を少しは壊せたかな?」
「──とっくに、もう俺の中にいる──」
ガバリと柊一が勢いよく顔を上げ、驚いたアーチボルドが肩をすくめながら柊一の顔を見ていた。
「本当にアーチー、お前ってやつはぁ〜!」
折角良い雰囲気だったのに、柊一はアーチボルドの首に吸い付くと被っていた上布団を邪魔そうに跳ね除けた。
「柊一っ、馬鹿、もう無理っ、無理ってば」
「挿 れないから……手で握って……」
柊一はアーチボルドの細い手首を掴んで自身の雄を握らせた。さっきまでのムードなんて嘘みたいにそこはもう固くなっていて、ドクドクと脈打っていた。
アーチボルドの手の上に自分の手を重ねて激しく上下させる。どんどん逞しくなっていく雄にアーチボルドは思わず慄いた。
「すごい、だろ……俺はアーチーに触られるだけでこんなになる……アーチーが俺を受け入れてくれたって知っただけで天にも昇る」
無理矢理握らされて自慰行為の手伝いみたいな真似をさせられているのに目の前の男は至極幸せそうに微笑んでいて、アーチボルドはそのちぐはぐさに混乱し、困惑した。
「柊一は……やっぱり変わってる」
快感に赤く顔を染めた柊一にアーチボルドは口付けて、諦めたように眉を下げたまま微笑んでみせた。突然のことに驚いた柊一だったが、そのキスで完全に理性のストッパーが外れたらしく、許された唇を何度も貪った。
そのまま柊一がベッドに仰向けになってアーチボルドが上に重なるように倒れた。
細い指が張り詰めた柊一の雄を撫でて、柊一は肩をすくめた。
その先端が熱くて柔らかな場所に包まれてゆく──
アーチボルドは柊一の胸に手を置いてゆっくり自分の中に男を迎え入れる──
「……め、アーチー……俺、止められなく、なる……から」
「俺も、もう、多分……無理──」
アーチボルドは柊一の全てを自分の中に収めきると腰を反らせて強い刺激に深いため息をついた。
「柊一……いい、よ」
瞳が熱で潤んだアーチボルドはわざと腰を揺らして男を誘ってみせた──
柊一だけが知る……情熱的で扇状的なメスのアーチボルド。そしてもう誰にも渡してなるものかと狭量で強烈な独占欲が柊一の全身を覆い尽くす。
許された場所を何度も下から強く穿ってその細い腰を手で押さえつけ、快感から逃げないようにアーチボルドを捕まえる。
「深い……っ、しゅ、いち……、あっ、奥……あつい……」
「……っ、ま、て……アーチー、俺……」
ビクビクと柊一の雄が脈打って最後が近いのをアーチボルドは繋がった場所から感じ取った。
「──いい、よ……一緒に、いてくれるなら……それで……いいよ」
アーチボルドは泣きながら柊一の上に重なり肩に両腕を回して胸に顔を沈めた。
「アーチー……」
柊一はアーチボルドの殺し文句にすっかりヒトとしての理性を飛ばして最後の最後まで奥を貫き、一気に中へ熱を吐き出した。アーチボルドもそれを受け止めるかのように中を畝らせ全てを飲み込む。
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