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 チャット画面は、気にしたら何もできなさそうだった。  視聴者からは、水戸くんの顔が良すぎるという感想と、僕が陰キャすぎて逆に可愛いという絶望的なイジリと、『豆カップル』なる謎の固定タグがつけられ、開始早々かなりのポイントが投げられた。  緊張する。水戸くんが何か言ってるけど、なんにも頭に入ってこない。 「あはは、ダメだね、理空。画面切っちゃおうか」  水戸くんはそう言って、タブレットを操作した。  プツリと壁面ディスプレイが切れ、タブレット画面にチャットの文字列が流れ出す。 「これ、配信終わったの?」 「ううん。視聴者さんからは俺たちのことは見えてて、24時間配信されてるけど、俺たちは自分の姿を見なくて済む。世界中に発信されてることには変わんないんだけど、気分的にね。あはは」  正直、助かった。  自分の一挙手一投足で投げ込まれるポイント変わるなんて、一日中見てたら病んでしまう。 「視聴者さんたちとは、たまに余裕あるときに、おしゃべりさせてもらおう」 「うん。ちょっとしばらくは、水戸くんに集中したい……かも」  ジャラジャラと、ポイントが入っていく音が聞こえる。 「ごめん、音切り忘れた。あはは」 「恥ずかしい……いまの発言のどこにポイントもらえるところがあったんだろ」 「んー、理空の存在全て?」  音も切ってくれて、完全にふたりきりになる。  もちろん見られ続けてはいるのだけど、それでもいくぶんかは緊張が解けた。 「さて、どうしようかな。暇だね。理空、やりたいことある?」 「んー」  しおりによると、最新ゲームや人気映画などが全て揃っていて、もちろん、全て無料らしい。 「僕は、ゲームが好き」 「そうなんだ。あっ、じゃあ、なんか日中とか暇なときに、ゲーム配信したら? 俺あんまやらないから、教えてほしいし」 「ゲーム配信!」  思わず身を乗り出してしまって、盛大に笑われた。  そして、勢いで抱きしめられた。 「ひぇ!?」 「あはは、何。恥ずかしい? こういうのはじめて?」 「ん、うん。ぎゅーとか、したことない……」  ゲーム配信に釣られすぎた……。  いつかやってみたいと思いながらできないでいたから、無料でできるなんて最高だと思ってしまったのだ。 「ぎゅーもしたことないのに、さっきの発言したんだ。大胆」 「さっきの、って?」 「配信が始まる5秒前に言ってたやつだよ」  水戸くんが、思いっきり僕の耳元に唇を寄せて、ささやいた。 「セックスする、って」 「ぶ……っ!?」  聞こえたのでは!? と思うけれど、タブレットは伏せてあるので、視聴者の反応は分からない。 「まあ、そういうのはおいおいでよくて。でも、キスはしたいなー」 「よ、よくわかんない」 「ねえ、顔見せて」  ぱちぱちとしばたたかせるその瞳には、星空が映っているようだった。  少女漫画の王子様。見つめられて、脳がバグを起こす。  僕は、えっと、なんだっけ……? 「目、開けててね。どんな顔するか見たい」  両頬を手で挟まれて、そのままふにっと、キスされた。  ただ唇をくっつけただけ。  それなのに、このまま破裂してしまうのではないかと思うくらい、心臓がバクバクと鳴っている。  水戸くんは、ちゅ、ちゅ、と、何度か角度をかえて口づけてきた。  僕はされるがままで、両手をだらんとしたまま、固まっている。  こんなんじゃポイントもらえないかも、なんて考えがチラリと浮かんだけど、それでも僕は動けない。  全身が熱い。ドキドキで、どうにかなってしまいそう。 「み、みとくん」 「なあに?」 「キスで死ぬことってある?」 「なにそれ」 「心臓発作とか」 「……はあ。ほんと、君は、」  そういうところだよ、と言って、耳を食む。  水戸くんが口づけできたところ全部が、沸騰して蒸発してしまいそうだ。 「ギブ、ギブアップ。水戸くん、もうだめ。恥ずかしくて死んじゃうっ」 「んー、しょうがないなあ」  水戸くんは僕を解放すると、タブレットをプチっとつけ「なるほど」と言って、また切った。 「……視聴者さんの反応見たの?」 「うん。でも、内緒。理空は見ない方がいいかもね」 「それって、」  評判悪かったのだろうか?  キモイとか?  恐怖で苦しくなってくる。  水戸くんは、僕の肩のあたりにのしっと体重を乗せて言った。 「すごく参考になった。とりあえず俺は、理空のこと可愛いなって思ったら、すぐキスすると思う」 「か、かわっ……!?」 「そう。理空のそういう反応が可愛い」  ……というその表情は、至って真面目なものだった。  少なくとも、嘘を言ったり、何かを隠しているわけではなさそう。  そうだ、相棒なのだから、彼を信じないでどうする。 「僕も、水戸くんのそういう引っ張ってくれるところとか、……すき、です」 「……へ!? あ、あははははは」  笑い転げた水戸くんが何を思っていたのか、僕にはよく分からない。 Day1 End.

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