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「はい。みなさんこんばんは。えーっと、……あ、もう21:00過ぎですね」
壁に映し出されたチャット画面を読みながら、ふたりでぺこぺこ頭を下げる。
カフェで仕入れた情報――盗み聞きだ――によると、この時間帯に視聴者さんと話をして、そのあとイチャイチャすると、高ポイントが狙えるらしい。
お風呂を済ませ、リラックス状態でチャットを見ると、視聴者が150人くらいいた。
「きょうはバドミントンをして、カフェでおやつを食べました」
[健全wwwww]
[相変わらずBL杯でやることじゃない笑]
視聴者によって固定されたタグには、豆カップルのほか、『清いお付き合い』『健康デート』等、ランキングに貢献しなさそうな文言がおどっている。
「でも朝は、理空に誘われて、ちょっと大人のキスもしたので。ね?」
「誘っ……たわけ、じゃっ、なっ」
[何それ見たかった]
[りくちゃんいま誘って!!]
誘ったというか、水戸くんの表現活動の糧にして欲しかっただけで、改めて促されてできるものではない。
無理だと言おうと思ってもごもごしていたら、水戸くんが、僕の顔を覗き込んで、じーっと見ていた。
「……なに? き、キス、した方がいい?」
「そりゃ、してくれた方がいいに決まってるでしょ。したい」
「あっ、そうだよね。ごめん」
しなきゃ、ポイントがもらえないし。
流れ的に、水戸くんからしてもらうより、僕からした方がいいということなのだろうか?
彼には彼の作戦があるのかもしれない。
僕は水戸くんの服の裾を掴み、教わったとおりに口づけ、そのまま舌を挿し入れた。
「ん、ふぅっ」
「……上手」
「はっ、」
全然上手じゃない。色っぽくもないだろうし。
こんなことなら、映画とかもうちょっと見て予習してくればよかった。
曲がりなりにも俳優科にいるのに……。
[やばい、やばかわやば]
[あああああああ尊い下手くそ可愛いああああ]
温かいのかディスなのか微妙なコメントが、滝のような速度で流れている。
いや、ほとんどが、『ああああああ』といううめき声?なのだけど。
「理空、」
ちゅうっと舌を吸われて、体温が上がる。
「ぁ、あ、やら、みとくん、」
「なんで? 嫌?」
「……ぁぅ、やらぁ」
何度も何度もキスされて、なぜだか水戸くんの手は僕の背中を這い回っていて……要するに、ちょっとエッチな気持ちになってきてしまったわけで。
「ん、んぅ、はあっ」
「ねえ、理空。画面切っていい?」
「……? チャットおわり?」
「部屋、暗くするね」
水戸くんが手早くタブレットを操作する。
と、室内が暗くなり、ドアの方からガコンという音がした。
「何? いまの音」
「ドアのセキュリティ。R18モードにしたから」
「へ、へ? えっ?」
「だって理空、勃ってる」
ぶわーっと顔が熱くなった。
バレてた……。
「ごめんね、なんか、勝手にそういう気持ちになっちゃって。せっかくチャット時間なのに」
「どうでもいいでしょ見てる人は」
「へっ?」
水戸くんらしくない物言いに驚く。
……が、暗闇に目が慣れてきて分かった。
彼も、同じような気持ちになってる。
「触っていい? 他の人には音声しか聴こえないから」
「ん。さわって、ほしい、です」
探るような手つきで僕のズボンに指がかかり、そのまま滑り込んできた。
下着一枚越しの感触で、身悶えてしまう。
「あ、ぁ、や、」
「それ、わざと? 演技?」
「んぅ、ちがう、」
「そっか。理空は、素でそんなに可愛く抵抗しちゃうんだね」
そういう水戸くんは、演技なのだろうか。
と思う間もなく、水戸くんのそれが、太ももに当たる。
「水戸くんも勃ってる」
「うん。なんでだろうね」
熱い吐息が首筋にかかる。
水戸くんも興奮してるんだと分かって、ますます興奮した。
こんなにエッチな気持ちになったのは、人生初かもしれない。
しかもこんな、大勢の人に声を聴かれた状態で……。
「水戸くんは、恥ずかしくないの?」
「…………まあ、濡場とかやるしね、役者は」
と言うやいなや、のしっと覆いかぶさってきて、そのまま押し倒された。
「うわっ」
あっという間に全身剥かれて、裸になってる。
どういう手さばき? と尋ねる間もなく、あちこち撫で回される。
「あ、ん……っ、ん」
「きもちい? どこがいいか教えて?」
「ふあ、ぁ、はずかし」
視聴者のみなさん、演技だと思ってください。
ほんとはこんなに、ほんとにエッチなことしてるけど、いっそポイント稼ぎの声だと思われたい。
恥ずかしい。
ていうか、ラブシーンは演技でよいって、しおりに書いてあった……ってことは、逆に言うと、本当はセックスなんてしないのでは?
「みとくん、やだ、エッチな声きこえちゃうっ」
「んー? じゃあ、キスで口塞いどいてあげる」
激しく口づけられながらペニスをしごかれて、上擦った声が漏れる。
「理空、こっちも触ってくれる?」
「どうすればいい?」
僕が力なく尋ねると、水戸くんはごろんと僕の横に寝転がった。
ベッドが軽く沈む。
おそるおそる手を伸ばすと、水戸くんのペニスもガチガチに硬くなっていた――『も』と言わなければならないほど、僕のものもガチガチだ。
「いつもしてるみたいにして? 理空、いつもどうやってしてるの?」
「えっと、根元のほ……ん、んぐっ!?」
「は!? こら、口で言わなくていいから! 人にきかれてるんだからね!?」
突然怒られて、きょとんとする。
ややあって、死ぬほど恥ずかしくなった。
「ご、ごめん。黙ってやれよって感じだよね」
「……はぁ、理空は危なっかしい。ごめんごめん、セクハラみたいな質問した俺が悪かった」
ムードゼロになり、おかしくなってくる。
「あはは。なんか、りく、可愛いなあ」
「ごめんねばかで……」
「なんでよ。可愛いよ」
頭を撫でられた。
キスされた。
気持ちいい。
心地よく目をつぶった、そのとき。
「……!? ぁ、やっ、んっ……」
「終わったなんて誰が言った?」
「はぁっ、あ、あっ」
激しくしごかれて、射精感が高まる。
訳がわからないまま、僕も水戸くんのものに手を伸ばして、自分でするときのようにした。
「……はは、理空、こんなエッチな手つきでするんだ」
「ゃ、言わないで、やだ、ぁぅ、」
「気持ちいい? 詳しく言っちゃダメ。気持ちいいかだけ教えて?」
「ん、ん……きもちぃ。きもちい、みとくん」
「俺も、もうやばい。イキそ」
精巧な人形みたいな顔の人が、イキそうなんて、俗的なことを言う。
そんなギャップになぜか興奮してしまって、もうダメだった。
「あっ、ぁ、いく、…………ッ!……っ!」
びくびくと体が跳ねて、熱い液がお腹に飛ぶ。
奇跡的に水戸くんのものをしごく手が止まらずに済んで、彼も僕の手の中に吐精してくれた。
「……っはぁ、はあ。ごめん。だいじょぶ?」
「平気」
「ティッシュ持ってくるから待ってて」
バタバタと後始末をする水戸くんの背中を見ながら思う。
こういう細部にこそ演技の良し悪しは宿るわけで、こんな本当っぽい動きをしたら、音声でも、本当だとバレてしまうのでは?
いや、本当にしたんだけど。
……演技だったと思われたい。
僕は、はーっと長く息を吐いて、四肢を投げ出した。
吐き出した精液が、お腹の上で冷えてゆく。
そんなささないなことで、本当に水戸くんとエッチなことしちゃったんだなあと……
なぜ、胸がくすぐったくなるのだろう?
Day2 End.
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