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interlude2

 朝起きて、隣に眠る擬似恋人を見て、可愛いなと思ったとき――水戸慶介は、少し自分を褒めようとした。  胸に芽生えた愛しい気持ちを、役に入り込めているのだろうと、前向きに捉えたのだ。  しかしそれは、キスの途中で砕け散った。  ――あの……も、もうちょっと大人っぽいのとか、しても大丈夫?  恥ずかしそうに言われて、キュンとしてしまって――この気持ちは演技ではないのだと、すぐに思い知った。  理空は十全に擬似恋人役をまっとうしようとしているが、かたや自分は、キスをしたくて仕方がない。  可愛い。本当に好きになって欲しい。めちゃくちゃにキスしたい。  どさくさにまぎれて「すき」と言ってしまったのは、本人に聞こえてしまっただろうか?  あるいは、視聴者の誰かに?  運動をしてみたり、カフェでおやつを食べたりして、健全になろうとした。  それなのに、理空は、何をしていても可愛い。  もうダメだ。  隣のボックス席で理空の話を盗み聞きしようとしている男を、張り倒してやろうかと思った。  本来の目的に立ち返って考えてみる。  正直、ポイント稼ぎとしては、悪手に出続けていると思う。  もっと思わせぶりな演技をしたり、ラブシーンも、音声だけで状況が分かるよう、セリフを工夫すべきだった。  しかし、理空の前ではそんな小細工はできない。  理空から投げかけられた問いに、慶介は、ギリギリそれらしき答えを返した。  ――水戸くんは、恥ずかしくないの?  ――まあ、濡場とかやるしね、役者は  我ながら、苦しい言い訳だ。  そこから我を忘れて手淫に夢中になってしまったのだから、役者魂のかけらもない。  白い喉を晒して絶頂を迎える理空は、妖艶そのものだった。  慶介は苦笑いをしながら、タブレットを引き寄せる。  コメント欄は称賛の嵐で、こんなものを理空本人が見たら、卒倒するだろう。 [さいっっっこうにエロかった!!!] [え、演技? だよね? りくちゃん才能開花しすぎでは?!る!!れ」 [やばい可愛いみんなに教えたい誰にも教えたくない有名になって欲しいけど有名にならないで] [それね] 「ごめん、理空。ティッシュ箱ごと投げる」  ぽいっと投げると、ベッドの真ん中から「あだっ」という声が聞こえた。  暗闇で手元が狂い、頭に当たったらしい。  ごめんと思いながら、チャットを追う。 [りくちゃんはポンコツなの?w 有能なの?w] [演技だとしたら怪物だわ] [引き出した水戸くんがやばい有能だよね] [あたしは本当にヤッてたと信じる!!] [あー、あしたの順位が楽しみだなこりゃw]  ジャラジャラと投げ込まれるポイントを眺めていると、新しいタグが固定された。 『三科の逸材』  彼が世間に認められるのは、誇らしい。  暗闇の中から、控えめな声が着替える。 「水戸くん、これ、このあと、チャットつける?」 「つけない。もう寝よ?」  言わせてたまるか。  あれが本当の嬌声だったことなんて、誰にも教えたくない。 interlude2 End.

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