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Day3 - たのしいこ
3日目になった。
昼食を終えたあと、僕は時間をもらって、ゲーム配信をした。
人気のオンラインゲーム。
本気を出してやっていると、昼時だというのに、視聴者は50人を超えていた。
僕たちを推してくれているファンの人もいるけど、単純にこのゲームが好きで見に来てくれた人もいる。
[りくちゃんすご]
[BL杯終わったあとも個人的にやって欲しい笑]
「家に配信する機材がないので、お年玉で買えたらやります……っと、あぶなっ」
ライフル銃を撒き散らす。
その横では、水戸くんがすぅすぅと寝息を立てている。
やっぱりゲームなんか退屈だよなと思う半面、毎日僕より遅く寝て僕より早く起きていたから、お昼寝はして欲しいと思う。
水戸くんの寝顔にポイントを投げてくれてる人もいるし……。
「ん、」
水戸くんが軽く寝返りを打ったと思ったら、胴体に腕を巻き付けてきた。
「う!? 水戸くん? うわっ、やば」
気を取られて撃たれて、ダメージを負う。
水戸くんは……寝ているらしい。
でも抱きつくのはやめてくれない。
[無意識に抱きつくみとくん可愛いww]
[やっぱガチ恋なのか]
[昨日の抜き合い、ほんとにやったの???]
[そういう探る発言やめて、夢壊れる]
どうやら、BL杯を視聴する人たちのほとんどにとっては、『これは疑似恋愛で、セックス音声も演技で、本当にヤッてはいない』という認識なのだという。
そこに恋愛感情や本当の行為はなかったとしても、だまされたと憤る人はいない。
ただ、リアルな演技だと萌えるし、ガチ恋だと思って観ていたいと思うという、まあ要するに、コンテンツなわけで。
「水戸くん、ごめん、やりづらい……」
コントローラーを持ったまま、ちょっと体の位置をずらして逃げようとする。
こてっと力が抜けて、水戸くんの腕は離れた。
……けど、額がぴったりと、僕の太もものあたりにくっついている。
[水戸くん、理空だいすきじゃん!!!]
[こーゆーの見てると、ガチ恋説支持したくなるwww]
[りくちゃん、相手のタンク役体力やばいから一旦逃げた方がいい]
「あ、教えてくれてありがとうございますっ。ちょっと別角度で体勢整えますね」
チャットを見ながらゲーム、楽しすぎ……。
これだけ人が見てるなら、水戸くんを起こした方がいいのだろうけど、ついつい何試合もしてしまう。
[理空くん飛び込み早い!!]
[えー槍もいいなw 今度使ってみよ]
「はい。槍は意外と使い道多いし、ライフルと併用すると、ソロでもやりやすいので……」
解説をしていると、水戸くんがもぞもぞと動き出した。
「ん……、ごめん。めちゃくちゃ寝ちゃった」
「あっ、えと、おはよう」
伸びをする水戸くんに見惚れて、あっけなく死んだ。
[ああーーー死んだwwww]
[凡wミwスww]
「すごい、視聴者80人超えてる」
「ただゲームしてただけなんだけど」
[森山理空を倒す方法は、水戸くんを起こすことだった!!!]
[秒で死ぬのうける笑]
[ゲーム配信またやってね~]
「はい。では水戸くんと話したいので、ゲームは終わります」
「あしたも理空にゲーム配信をしてもらうので、よければ来てください。固定メッセージに、タイムスケジュール貼っておきます」
ありがとうございました、と締めくくり、水戸くんは新たに固定メッセージを足した。
毎日配信
10:00 発声練習と、セリフ読み
13:00 理空のゲーム配信
15:00 外デート
21:00 おしゃべり配信
「なんかすごい、規則正しいね」
「時間帯決めた方が、視聴者さんも予定空けて観に来てくれるかなって」
なるほど、作戦なのか。
しおりにはそういうことは書いていなかったから、水戸くんが独自に考えたのだろう。
僕となら天下を取れる、と言ってくれたけれど、水戸くんに引っ張ってもらえれば夢でもないのかな、と思う。
「あとでカフェ行こう。昨日のポイント見たいし」
「緊張する」
「まあ、気負わずだね」
そう言って水戸くんが、不意打ちでキスしてきた。
されると思わなかったから、思わず変な声がでてしまった。
「なに、理空。もうキスなんか何回もしてるのに。慣れない?」
「う、うん……ごめんね。恥ずかしい」
「そういうとこ好きだよ」
作戦、と分かっていても、照れてしまう。
なんと返していいか分からない間にも、何度も何度もキスされて、ちょっと息が上がってくる。
「ふぁ、み、とくん……っ、んぅ」
「キス気持ちいい」
水戸くんが、しみじみと、味わうように言う。
唇をくっつけるだけだからエッチな気持ちにはならないけど、頭がぽわぽわしてくる。
活躍してる俳優はきっと、こんな風にたくさんキスしても、個人的な感情を抱いたりすることはないのだろう。
それは多分、水戸くんも――
「理空、これ、止まんないね」
こんな風に胸がきゅうっとしたらダメって、分かってるのにな。
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