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interlude3
水戸慶介は、苦悩していた。
擬似カップルを組んで、たかだか3日。
たかだか3日の相手に、本気で恋をしてしまっている。
慶介はこのBL杯に臨むにあたり、卒業生からアドバイスをもらったり、過去のアーカイブ映像を見せてもらったりして、かなり研究していた。
誰もやっていない手法で、確実にポイントを取りたい――
考察の末たどりついたのが、『日中の活動で、ブランディングしていくこと』。
過激な性サービスをするよりは、デビュー後のキャラクター付けも含めて、人柄が出るようなものを提供した方がいいと考えたのだ。
タイムスケジュールをかっちり組み、視聴者が見たいものが確実に見られる体制を作った。
ただの発声練習に固定ファンがついたのは予想外だったが、あらかじめ考えていた『相方の趣味を配信する』は大成功だった。
ゲームを通して視聴者と交流する理空は可愛い……と思ううちに、安心してしまったのか、気づけば爆睡していた。
そして目が覚めて、絶望した。
ゲーム画面に夢中になる茶色い瞳に、釘付けになった。
目が離せなかった。
これは、恋だった。
作戦会議なんて言葉を利用して、ふたりきりになって、キスをしてしまう。
本当は演技でかまわないのに、セックス同然のことをしてしまう。
うれしいと言ってしまう。
うれしいと言わせてしまう。
慶介は煩悶 しながら、ごろりと寝返りを打った。
深夜2:00。
理空の寝相は行儀が良いが、なぜか自分に抱きついている。
この寝姿も全世界に配信されているわけで、疑似恋愛を提供する役者としてはパーフェクトなのかもしれないが。
恋をする慶介にとっては、呪いだ。
幸い、好きだと口を滑らせても、理空は本気にしていない。
視聴者のチャットも盛り上がるから、問題はないのだろう。
ただただ、自分が、恋の呪いに苦しめばいいだけで。
「……、みとくん」
「ん?」
「…………」
寝言だったらしい。
慶介は、ぼんやりとした思考で、つむじのあたりに口づけた。
BL杯で本当に惚れてしまう奴なんて、聞いたこともない。
聞き取れないほどの小声で、本音が漏れる。
「……まあ、3日じゃないしな」
半年間心の支えにしていた相手と、四六時中一緒にいる。
恋の呪いの元をたどれば、あの、うららかな春の日だったのかもしれない。
ならばこれは、仕方のないことなのだろうか?
interlude3 End.
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