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 夜の配信では、もう穴があったら入りたいくらい、ひたすら今朝のことをいじり倒された。 [あーーー可愛かったぁ尊かったぁw] [よかったねえ水戸くん、守ってもらえて] 「ほんと、面目ないです。俺がもっときっぱり言わなきゃいけなかったのに」 [あいつら評判悪いから大丈夫だよ!!] [そーそー。人気出ないからって、他人の噂とかでポイント稼ぎしてる] [見えすいた嘘でキモすぎるからw]  悪口大会になりそうなところを、水戸くんがうまくおさめてくれる。  僕はひたすらぺこぺこしていて、擬似カップルでもなんでもない。  チャットをぼーっと眺めていたら、ふと、ハルトさんの言葉が思い浮かんだ。  ――仮にも交際相手に疑ってかかる奴とかいる? 「こうさいあいて……」 「え? 理空、なんか言った?」 「あっ! あ、いやっ。ちょっと」  もじもじしていると、水戸くんはふっと目を伏せて笑ってから、唐突にキスしてきた。  しかも、がっつり舌が入ってくる。 「ん!?」 「なんて言ったか教えて? 教えてくれないとやめない」 「んーっ、ん、……ぷぁっ、ちが」 「何が違うの? すごい可愛い顔してたもん、絶対可愛いこと考えてたでしょ」 「ふあ、んっ、……言う、言うからぁっ」  ぽすんと押し倒されて恥ずかしくて、僕は、目を逸らしながら言った。 「さっきハルトさんがユーキさんに『交際相手』って言ってたから。僕も水戸くんに対して、そう思ってもいいのかなって」 「…………理空。君ってやつは。なんでこんなに」 「へ? 何が……?」 「そういうとこだよ」  水戸くんの肩越しに見えるチャット画面は、『ああああああああ』の連打が流れている。 「交際相手でしょ? 交際相手だよ。だって、付き合ってなきゃこんなことしなくない?」 「ん、んっ。……しなぃ」 「だよね。好きじゃなかったら、こんな風にならないよ」  水戸くんは体をひねって起こし、雑にタブレットをタップした。  部屋が暗くなり、ドアロックがかかる。 「ねえ、分かる? これ」 「ん……。みとくん、勃ってる」 「理空も勃ったよ。R18モードになって、期待しちゃった?」 「うん。暗くなったらえっちなことしてくれるって、知ってるから」  水戸くんは、わざと僕の耳の中に吹き込むように言った。 「エッチなことってなに?」 「ちんちんさわったりとか……」 「あとは?」 「むね、とか」 「他には?」 「水戸くんも、僕の脚で擦って、気持ちよくなってくれる」 「うん。きのうの気持ちよかった。またしていい?」  矢継ぎ早に質問されて、心臓がばくばくと鳴る。  僕は、小さく首を横に振りながら言った。 「き、きのうのじゃなくて、もっと、しよ? 付き合ってるから」 「もっとって何?」 「この中、えっと、挿れる……とか」  なけなしの勇気を振り絞って誘って――反応が、ない。  引かれたかと思って慌てて訂正しようとしたら、水戸くんは、聞いたこともないようなわめき声を上げた。 「うわあああああ!」 「え!? なに、ごめん! え!?」 「理性を司る細胞が全部死んだ。だめ、むり、無理だ」  水戸くんは、ふーっと、興奮した動物みたいに息を吐きながら、苦しそうな表情で僕の体にのしかかってきた。 「理空の中、入りたいよ。でも痛い思いさせたくない。なのに、理性の柵がぶっ壊れた。挿れたい。挿れたいしか考えられない」 「僕も、水戸くんの挿れてもらったら、お尻気持ちよくなりそう。して欲しい」 「交際してるから?」 「そう。変じゃないよね?」  僕は戸棚を探り、備品のおもちゃを取り出した。  エネマグラ――前立腺マッサージのための道具だ。 「りく、それ、使い方わかる?」 「分かるよ。だって……毎日、お風呂とトイレの時、ずっと練習してた」  水戸くんが、ぱっと目を見開く。 「れ、練習してた……って?」 「うん。いつか挿れてくれるかなって、まあ本気で期待してたわけじゃないけど、挿れて欲しいという願いだけは持って、1日に何回も練習してた」  トイレの個室にこっそり隠していて、4日間で、そこそこスムーズに出し入れできるようになったと思った。  と言ったって、本物の大きさに比べたら全然だけど。  水戸くんは、壊れ物を触るような手つきで、そっと僕の体を抱きしめた。 「そんなこと考えてくれてたなんて、うれしい」 「なか、触ってみて」  水戸くんの手が、そろりそろりと下りてくる。  下着ごとズボンを下ろすと、遠慮がちに周りをふにふにと触り、指先数センチだけ挿れてみたりしていた。 「ん……んっ」  「理空の体、全部見たいな」  お互い脱がし合って、ペニスがガチガチなのが分かる。  水戸くんはローションを取り出し、そんなに山盛りに出しても意味ないくらいの量で、僕のお尻の周りや中を濡らしていった。  ぬぽっぬぽっと、いやらしい音と、たまに、水戸くんの我慢するような深呼吸が聞こえる。 「あ……、っ、あっ、そこ」 「このコリコリしてるの?」 「んっ、ふぁっ」  薄ぼんやりとした暗闇の中では、水戸くんの表情ははっきりとしない。  けど、本当はすぐにでも挿れたいんだなというのは、見てとれる。  水戸くんの理性の柵は全く壊れていないし、僕のことを大事にしようとしてくれているのが、よく分かる。  だからこそ、僕がそれを壊してあげないといけなかった――なんてことは回らない頭の片隅で考えているだけで、実際の僕はもう、欲しくて欲しくてたまらないのだけど。 「みとくん、挿れて、おく、気持ちよくして」  彼は黙って僕の腰の下に枕を挟み、ぐっと脚を持ち上げた。  全部が見えちゃって、恥ずかしい。  恥ずかしいから、興奮する。  水戸くんは、くるくるとコンドームをはめると、何も言わずに、先端を僕のお尻の穴に当てた。  まるで、誰にも聞かれたくないみたいに、小声でささやく。 「力抜いて? あと、痛かったらやめるから、すぐ言って」  ぐぐっと入口が押し拡げられて、塊が入ってくる。 「ぁー……、あ、ぁ、」 「……っ、やば」 「はあっ、ん、んっ」  腕にぎゅうっとしがみつくと、引き締まった筋肉に、自分の指が沈み込む。  お互い無言で、息を殺しながら挿入しているから、視聴者的にはなんの面白味もないだろう。 「ん、……んっ」 「苦しい? 大丈夫?」 「へ、き。ぁぅ、はあ……っ」  水戸くんが、ゆるゆると動き出す。  痛いかも、なんていうのは要らぬ心配で、ずるっと中が擦れるたび、あられもない声が出そうになる。 「……っ、ふぅっ、んっ」 「理空、気持ちよさそう」 「ふ、きもちぃ、……っ、」 「よかった」  スピードが増していく。  僕の声は細切れになり、水戸くんの呼吸は荒くなっていく。  パンパンという乾いた音が部屋に響いて、こういうのが映像上の演出じゃなかったのだと知る。  声が裏返る。  水戸くんは奥を何度も突く。  僕たちは、興奮のるつぼの中で溺れる。 「ああっ、……あッ、も、イッ、ぁ」 「……っ、イキそう?」 「はぁ、んぅっ、イキたぃ、ちんちん触りたいっ」 「いいよ。自分でしてみて」  水戸くんは僕の腰を掴み、ラストスパートをかけるように、ガンガンと突いてくる。  僕は本能のままに自分のものをしごいた。 「あ、出ちゃ、……っ、精子でるっ」 「うん。いいよ」 「あ、あッ……っ、いく、イッ、イクイクイクっ、…………ぁああッ!…………っ、……!」  ぼたぼたと、指の間から性液がこぼれる。  力の抜けた体を支えて、水戸くんはなおも腰を振っている。 「は、はぁっ、あ、あっ」 「理空、も、イク……っ、…………ッ!」  呼吸ができないくらい抱きしめられる。  お互い息を詰めて、僕の中で水戸くんが果てるのを感じていた。

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