15 / 32

4-3

 はじめて繋がって最後までして、映画なら、キザったらしいピロートークでもするのだろうけど……。  僕たちは無言で、粛々(しゅくしゅく)と事後の片付けをした。  そして、チャットをつけた。 [うわあああああ話す!?!?!れれ!!!!] [まじ!?やばいやばいやばいくると思わなかったやばい] [え、これ、何してたかとか聞いていいやつ??]  視聴者はなんと、700人。  多分、ほとんど何をしているか分からないような音声を、全校生徒くらいの人数の人が、聞いていたなんて。  僕は水戸くんの服を掴み、うつむいた。  ディスプレイに映る自分が、真っ赤だったからだ。  水戸くんは、頭を掻きながら言った。 「まあ、聞いてて分かったと思いますが……初エッチしました」  コメントが滝のように流れる。 「演技だったのか、本当だったのかは、想像にお任せします。演技だと思うならぜひ理空の熱演を褒めてあげて欲しいですし、本当だと思うなら、……俺たちのことをちょっとだけお祝いしてくれるとうれしいです」 [りくちゃんてんさい!!演技でもほんとでも天才的にかわいいよ!!!] [ありがとう水戸くんこの世に生まれてくれて] [↑そこを祝うのかwww] [どっちでもいいよーどっちでも尊いよー泣] [あしたご祝儀1000コイン入れるから!] 「あ、ポイントのことはお気になさらず! お祝いの気持ちだけで十分なので」 [いやいやいや無料コインだけじゃ足りないこの愛しい気持ちよw 課金させてくれw] [何気お祝いって言い切ったのうける笑]  固定タグに、『赤飯炊こう』という、謎の文言が足される。 「理空、なんか言いたいことある?」 「え? えっと……、えと、変なこと言ってなかったか心配です。途中から訳わかんなくなっちゃったので……。変なこと言ってたら忘れてください」  ジャラジャラとポイントが入ってくる。  コメントの流れが速すぎて拾えない。  僕が前のめりに画面を見ていると、水戸くんが口に両手をあてた。 「くぁ……。すいません、あくび出た。さすがに眠いです。結構体力使うんですね、こういう行為って」 「え? 水戸くんは、こういうの……はじめてなの?」 「ん? うん」  お互いきょとんとして、数秒の沈黙ののち、盛大に赤面する。 「すっ、すいません。ちょっときょうはもう眠いので寝ます! おやすみなさい!」  水戸くんは焦った表情で、ディスプレイを切った。 「水戸くん、こういうことしたことないの?」 「当たり前でしょ。中1からスクール入って、誰かと付き合うとか不可能だったし、キスだって授業で習ったのをしただけだよ。本当にはしたことなかった」 「そ、そっか」  なぜだか分からないけど、よろこびがむくむくと湧き上がってきた。  本当にしたのは僕がはじめてなのだということに、うれしさが込み上げてきてしまう。  ……って。いや、違うか。  BL杯は疑似恋愛だし、はじめてにカウントしちゃだめなのかも。  でも僕は、一方的でもいいから、はじめてのセックスの相手は水戸くんだったと、そういう思い出を抱いて生きていきたかった。 「水戸くん、僕、きょうのこと、一生忘れないよ。ありがとう」  ……反応がない。  目を見開いている。  僕は下を向き、もじもじと指先をいじった。  片思いでも、全然かまわない。  僕は水戸くんのことが好きだと思った。 Day4 End.

ともだちにシェアしよう!