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はじめて繋がって最後までして、映画なら、キザったらしいピロートークでもするのだろうけど……。
僕たちは無言で、粛々 と事後の片付けをした。
そして、チャットをつけた。
[うわあああああ話す!?!?!れれ!!!!]
[まじ!?やばいやばいやばいくると思わなかったやばい]
[え、これ、何してたかとか聞いていいやつ??]
視聴者はなんと、700人。
多分、ほとんど何をしているか分からないような音声を、全校生徒くらいの人数の人が、聞いていたなんて。
僕は水戸くんの服を掴み、うつむいた。
ディスプレイに映る自分が、真っ赤だったからだ。
水戸くんは、頭を掻きながら言った。
「まあ、聞いてて分かったと思いますが……初エッチしました」
コメントが滝のように流れる。
「演技だったのか、本当だったのかは、想像にお任せします。演技だと思うならぜひ理空の熱演を褒めてあげて欲しいですし、本当だと思うなら、……俺たちのことをちょっとだけお祝いしてくれるとうれしいです」
[りくちゃんてんさい!!演技でもほんとでも天才的にかわいいよ!!!]
[ありがとう水戸くんこの世に生まれてくれて]
[↑そこを祝うのかwww]
[どっちでもいいよーどっちでも尊いよー泣]
[あしたご祝儀1000コイン入れるから!]
「あ、ポイントのことはお気になさらず! お祝いの気持ちだけで十分なので」
[いやいやいや無料コインだけじゃ足りないこの愛しい気持ちよw 課金させてくれw]
[何気お祝いって言い切ったのうける笑]
固定タグに、『赤飯炊こう』という、謎の文言が足される。
「理空、なんか言いたいことある?」
「え? えっと……、えと、変なこと言ってなかったか心配です。途中から訳わかんなくなっちゃったので……。変なこと言ってたら忘れてください」
ジャラジャラとポイントが入ってくる。
コメントの流れが速すぎて拾えない。
僕が前のめりに画面を見ていると、水戸くんが口に両手をあてた。
「くぁ……。すいません、あくび出た。さすがに眠いです。結構体力使うんですね、こういう行為って」
「え? 水戸くんは、こういうの……はじめてなの?」
「ん? うん」
お互いきょとんとして、数秒の沈黙ののち、盛大に赤面する。
「すっ、すいません。ちょっときょうはもう眠いので寝ます! おやすみなさい!」
水戸くんは焦った表情で、ディスプレイを切った。
「水戸くん、こういうことしたことないの?」
「当たり前でしょ。中1からスクール入って、誰かと付き合うとか不可能だったし、キスだって授業で習ったのをしただけだよ。本当にはしたことなかった」
「そ、そっか」
なぜだか分からないけど、よろこびがむくむくと湧き上がってきた。
本当にしたのは僕がはじめてなのだということに、うれしさが込み上げてきてしまう。
……って。いや、違うか。
BL杯は疑似恋愛だし、はじめてにカウントしちゃだめなのかも。
でも僕は、一方的でもいいから、はじめてのセックスの相手は水戸くんだったと、そういう思い出を抱いて生きていきたかった。
「水戸くん、僕、きょうのこと、一生忘れないよ。ありがとう」
……反応がない。
目を見開いている。
僕は下を向き、もじもじと指先をいじった。
片思いでも、全然かまわない。
僕は水戸くんのことが好きだと思った。
Day4 End.
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