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 若干の腰のだるさを感じながら、ゲーム配信をしていた。  しおりを何度も読んだけれど、やっぱり視聴者と一緒にオンラインゲームをやるのはダメらしくて、僕がソロでやるのを見てもらうしかない。  一緒にできたら、ポイントに貢献できたのかな……なんて少し思ったのだけど。  水戸くんは隣で戯曲理論のテキストを読んでいて、これに関しても『BL杯で勉強してる人は見たことがない』というコメントで、視聴者が盛り上がっている。  こういう努力をしている人を間近で見ると、習い事感覚でスクールに通っていた自分が、少し恥ずかしい。 [うしろうしろうしろ!!!!] [逃げてーーーー] 「うわ!? やばっ」  ガチャガチャとスティックを回し、ボタンを連打する。  避けきれず思い切り被弾したところで、手元のタイマーが鳴った。 「あ、時間切れです。きょうのゲーム配信は終わります」 [あと3日で討伐できるのかw] [りくちゃんがんばってー!]  ぺこぺこ頭を下げながら考える。  そうだ。この関係は、きょうを入れてもあと3日しかない。  当たり前だけど、終わりが来るんだ。  伏し目がちな水戸くんの、長いまつ毛を盗み見る。  彼はどう思っているのだろう。  好きとか言ってくれるし、そういう行為もしている。  でも、セックスは気持ちの証明にはならないかもしれない。  本当に好きじゃなくても、勃てばできるよね……とか。 「ん? なあに?」 「な、なんでもない。難しそうなテキスト読んでるなーって思っただけ」 「あはは。難しいよ。全然分かんない」  決して、彼が嘘を言っていると思うわけではない。  でも、それよりも、『水戸くんには目的があってここにいる』ということを、忘れないようにしないといけないと思うのだ。  水戸くんは本をサイドテーブルに置くと、僕の手首をそっと捕まえた。  そのまま軽くキス。それで、ちょっと吸ったり、音を立てたり、大人のやつ。 「水戸くんは、BL杯終わるの、寂しい? 僕は寂しい」  こんな聞き方、ずるいと思う。  寂しいよって、話を合わせるしかないような、誘導尋問だ。  でも水戸くんは、くすっと笑って、僕の頭をぽんぽんと撫でた。 「寂しくないよ。だって、ふたりでデビューするんでしょ?」 「あ……っ、そっか。勝ったら、僕もデビューになるんだ」 「そうだよ。俺たちは天下を取れるって、最初に言った」  覗き込む瞳には、星くずが散っている。  彼はきっと、羽ばたくだろう。  でも、僕は?  水戸くんのおかげでデビュー権がもらえたとして、僕はそれで、俳優になるのだろうか?  そんな覚悟、したこともないのに。 「僕は、自分がどうしたいのかとか、よく分かんない。水戸くんみたいにやりたいことがはっきりしてるわけじゃないし、もしデビューしても、逃げ出して辞める未来しか見えない。だって、ぼくは、ぼくは……」  水戸くんの服の裾を引っ張り、体を丸めるように頭を下げる。 「僕はいま、水戸くんと離れたくないしか考えられない。全然、だめなんだ」  ごめんね水戸くん。  いくら君が頑張っても、肝心の相棒がこれじゃ、最後の最後で負けちゃうかもしれない。  どれだけゲームで視聴者が増えても、真剣に夢を追ってる人たちには勝てない。  ハルトさんやユーキさんを見て、そう思ったんだ。 「理空、顔上げて?」  そろっと顔を上げると、水戸くんは眉尻を下げて微笑んでいて…… 「んぐ!?」  思い切り胸ぐらを掴まれて、強引に引き寄せられる。  そのまま乱暴にキスされて、僕はばたばたと暴れた。 「くる、苦しっ、」 「いまのは理空が悪い」 「ごめん、ごめんなさいっ」 「俺も理空と離れたくないだけ考えてればよかった。ずるい。ごちゃごちゃ考えてた俺がばかみたいじゃんか」 「ごめ……っ、え?」  水戸くんの態度は相変わらず胸ぐらを掴んだままだけど、その表情は、ちょっぴり泣きそうな、それでいてうれしそうな、なんとも微妙な笑顔だった。 「俺は貪欲だから、夢も掴みたいし、理空とも一緒に居たい。デビュー後にどういう道に進むのかは理空の自由だし、辞めるならそれでいいと思うけど……」  水戸くんは僕の両手を取り、しっかり目を合わせて言った。 「まずは、一緒に居るために、一緒に戦ってほしい」 「……分かった。そうだよね。なんか、大事なこと見失いそうになってた」  水戸くんが、手を離す。  僕は、ふんわりと抱きつく。 「そんな風に考えてくれて、俺はめちゃくちゃうれしいの。それは忘れないで」

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