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Day6 - なきむしのこ

 6日目の朝。  きょうは起き抜け一番にカフェに行って、順位を見てきた。  50組中、4位。  大健闘。こんなこと、始まる前には全く予想できなかった。  ……とはいえ、3位にはかなり離されていて、どうしたら追い抜けるのか、ちょっと悩んでしまう。  部屋に戻り、バスルームで作戦会議を始めた。 「きょうは19:00から、全体のイベントがある。イベント内で投げられたポイントは2倍になって付与されるから、追い抜くならここしかないかな」 「どんな内容なのかは書いてないね」 「毎年違うから、対策不可。でもまあ、演技や歌唱力を問われるものではないみたいだし、理空はいつもどおりにしてて。俺が主導するから」  たしかに、下手に頭を使おうとして変なことになるよりは、素直に水戸くんの言うとおりにした方がよさそう。 「どうしようかな。卒業生の先輩に聞いた話では、6日目は徹夜組が多いらしいんだよね」 「なんで?」 「最後の夜の、一番お客さんが来る時間帯をイベントで取られるから、自分の部屋でパフォーマンスをする時間が減るでしょ? 埋め合わせを夜通しするしかない」 「なるほど。じゃあ、日中に仮眠とる?」 「うーん」  水戸くんは難しい顔で、腕を組みをする。 「13:00からの理空のゲームは、削るべきじゃないと思うんだよなあ。固定ファンを大事にしないやり方は、結果的に身を滅ぼす気がして」 「じゃあ、15:00の外デート?」 「他のカップルは寝てるだろうから、外に出たら目立てる気はして。うーん」  24時間眠らずに済んだらいいのに。 「よし、午前中の発声をやめよう。いまから二度寝する」 「えー? セリフのリクエストでポイント稼げるのに? もったいないよ。ゲームをやめた方が……」 「平気。切り抜ける方法を思いついた」  水戸くんはバスルームを出ると、ノートを1枚ちぎり、マジックで何やら書き始めた。    今日は夜更かしするので、    いまから二度寝します    セリフのリクエストは夜にやるので    考えておいてください  このメッセージを見やすいところに置いたあと……なぜか突然、僕のズボンを脱がしてきた。 「は!? えっ、ちょっと……!」 「大丈夫、パンツは脱がさないから」 「当たり前でしょ! 何?」 「俺のワイシャツ着て寝て。はい」  水戸くんのシャツなんて大きくてだぼだぼ……と考えて、彼の作戦が何なのかに思い至る。  彼シャツ。 「僕の太ももなんて、需要あるかな」 「あるある。視聴者さんに無かったとしても、俺にはある」 [あるよーーーーー!!!!れれ!れ!!] [は!?彼シャツやばいやばいやばい] [水戸クンはどんな格好で寝るのカナ!?] [↑おじさん構文やめろwwwww]  こんなに盛り上がられて寝にくいよ、と思いつつ、いそいそと着替えて、ベッドに横になる。  水戸くんは、お腹にふんわり布団をかぶせると、僕を抱き寄せて、耳が胸のあたりにつくようにした。  そしてそのまま、小さな声でゆっくりと、童謡を歌い始める。 「せーんろはつづくーよー どーこまーでーもー」  胸骨を伝って、やわらかな歌声が耳の中に入ってくる。  あったかくて、心地よくて、彼のにおいに包まれて……。  やっぱり好きだなと思いながら、うとうとと、夢の世界に落ちていく。 「のーをこえやまこーえー たーにこーえてー」  ずっとこうしていられたらいいのにな。  何もしないで、何も食べないで、ずっとこんな風に、だっこされて。 「はーるかなまちまーでー ぼーくたーちーのー」  君と。ずっと。  こんな風にして。 「たーのしいたびのーゆめー つーないーでーるー」

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