22 / 32
6-2
二度寝から目覚めたゲーム配信は、めちゃくちゃ盛り上がった。
最終日の前日までやるのかと総ツッコミが入り、あしたもやると言ったら大爆笑され、頑張れと励まされ、大量にポイントが入った。
外デートは図書館で静かに過ごして、戻ってきたらけっこうポイントが入っていた。
水戸くんの予想どおり、外に来ている人が全然いなかったので、目立つことができたようだった。
全てが順調。
そしていよいよ、イベントだ。
開始前、水戸くんは僕の制服のネクタイを結び、ぽんと肩を叩いて言った。
「よし、完璧。可愛い。優勝間違いなし」
そう言う水戸くんの方が、完璧な仕上がりだ。
こんな人が学校にいたら、まぶしくて目が潰れそう。
いや、実際高校生なのだから、このキラキラオーラを浴びて暮らしている人たちが、実在しているのだけど……。
会場は最初のカップリングのときに使われたホールで、披露宴会場のように、4人掛けのテーブルがいくつも並んでいた。
「えーっと、俺たちは4位だから……あ、あそこだね」
「う!? あんな、一番前の正面!?」
「同じテーブルの3位カップルは、知らない人だな。ふたりとも、ミュージカル一科生みたいだけど」
隣のテーブルでは、きのうついに1位に躍り出たハルトさんとユーキさんが、仲良く手を振っている。
「慶介、森山くんも。おつかれ」
「ボクちゃんすごいやん! 三科の子がおるって注目されてんで」
「いえ……ハルトさんとユーキさんの方がすごいです。1位なんて」
ぺこぺこしていると、水戸くんが僕の服の裾を引っ張った。
「ほら、始まるよ。理空はこっち」
「あ、うん。ごめん」
ぼさっとしすぎだ。気合を入れないと。
3位の人たちはライバル意識が強いのか、ひと言も口を聞いてくれない。
水戸くんが当たり障りのない挨拶をしてくれて、僕もなんとなく頭を下げる。
席につくと、水戸くんがこそっと耳打ちしてきた。
「他人に愛想振り撒いちゃだめ」
「愛想……?」
「うん。どれだけ親切に見えても、みんなライバルなんだから。俺のことだけ信じて、俺だけを見てて? 分かった?」
「うん、分かった。そうする」
ここは戦場、ここは戦場と、自分に言い聞かせる。
正面の巨大ディスプレイには、視聴者のコメントや会場の配信映像が流れていた。
よく見れば、ホール内には何台もカメラがあって、上位の僕たちは、よく映してもらえている――自分の表情が固すぎて、情けなくなるけれど。
『お待たせしました! これより、BL杯合同イベントを行います! 今年の競技は、至ってシンプル。「相手の好きなところをできるだけたくさん書く」です!』
会場がざわつく。
僕も驚いて、水戸くんの腕をそっと掴んだ。
「何か必勝法みたいなの、思いつく?」
「……無理かな。下手に奇をてらったら視聴者さんにバレるだろうし、普段のキャラからブレない方がいい。だから、作戦とかは何も考えないで、理空が思ったとおりに書いてみて」
「思ったとおり……かあ。言葉にするの苦手なんだよな」
「大丈夫。俺の好きなところ挙げるだけだよ。簡単でしょ?」
そう言って微笑む笑顔には、僕の好きな水戸くんの魅力が詰まっていた。
そうだ。ありのままに、僕が彼を好きな理由を書いていけばいいんだ。
フリップと油性マジックが配られる。
上手とは言えない文字で、所属と名前を書き込む。
三科……と書くところで、手が震えた。
落ちこぼれがこんな場違いな場所にいて、他の参加者にどう思われているのか。
人と比べるのは怖い。
自分で自分を評するのは苦しい。
だからいまは、水戸くんの言うことだけを信じて、彼に全てを託したい。
『それでは、制限時間は1分。よーい、スタート!』
ともだちにシェアしよう!