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部屋に戻り、お風呂を済ませてチャットをつけると、1000人以上の人たちが見にきていて、僕の優勝のお祝いしてくれた。
[りくちゃんおめでとーー!!!]
[愛がすごかったよw]
[水戸くんめっちゃプルプルしてたの、あれどうしたの?]
「えっと、笑ってました。多分皆さんと同じ感想ですが、どれだけ俺のこと好きなんだっていう」
[ねーw]
[本人すら戸惑うレベルの圧倒的好意ww]
[プルプルみとくん可愛かったなー]
僕はコメントに合わせてへらへら笑っていたけど、実際は、どの褒め言葉も虚しくて仕方がなかった。
今朝できなかったセリフ読みをすることになって、いつもどおり、視聴者が言って欲しいセリフを交代で読み上げても……。
「理空とずっと一緒にいたい」
「僕も、そう思ってる」
本当にそう思ってるのに、人が用意したセリフでは、こんなにも気持ちが乗らない。
10分をすぎたところで、水戸くんが僕の異変に気づいた。
「理空? どうした?」
「…………みとくん。ごめんなさい」
目に涙がにじんでくる。
「ここまで頑張って、視聴者さんたちもたくさん協力してくれたけど、やっぱり僕じゃ、優勝なんてできっこない」
「ええ? なんで。できるよ。さっきだって大活躍だったじゃない」
「あんなの、たまたま面白い感じで書いちゃっただけで、役者とかなんにも関係ない」
うつむくと、大粒の涙がぽたぽたと落ちた。
ポイントが入るジャラジャラとした音が止まり、室内に沈黙が流れる。
水戸くんは、静かに僕の両肩へ手を乗せ、耳元に顔を寄せた。
「……ハルトに何を言われた?」
「えっ?」
「何か、酷いことをいわれたんでしょ」
「ちが……」
水戸くんは僕の腕を引っ張り、バスルームに飛び込む。
そして、力一杯抱きしめてきた。
「何言われたの」
「……ぼく、僕がふざけてるせいで、水戸くんの真剣な努力を台無しにしてるって」
「なにそれ、そんなわけない」
「ううん。ハルトさんの言うとおりだと思ったんだ。うまくいかなくて、水戸くんの足を引っ張って、傷つけて終わりになる。ごめん、ごめ……ぅ」
キスで顔を起こされて、涙が口に入る。
水戸くんはそれごと舐めとるみたいに、貪 るように口づけながら言った。
「なにそれ。俺が傷つくかどうかなんて、誰にも決めつけられる筋合いないでしょ。俺は傷つかない」
「ん、んぅっ」
「強いて言うなら、ハルトの言うことを鵜呑みにして、俺の気持ちを考えてくれないいまこの瞬間が、一番傷ついてる」
「……ふぁ、みとくん、ごめ」
「うまくいくかなんて、もうどうでもいいよ。別に負けてもいい。理空が好きだ。演技じゃないし、セリフでもないよ」
ちゅっと音を立てて唇を離し、彼はにっこり笑って言った。
「デビューなんか、自力で掴める。でも、理空がいないと生きていけない」
「みとくん……。僕も、ぼくも、水戸くんのことが大好き。水戸くんがいないと、生きていけない」
水戸くんが僕の手を取り、お姫様をエスコートするみたいに、室内に戻ってきた。
するとチャット画面には、こんなコメントが表示されていた。
[みんな、理空ちゃんと水戸くんのことが大好きだよ!]
[最後まで応援してる。勝っても負けても、どっちでもいい]
[りくちゃん、笑って!]
[水戸慶介、男を見せろ!!]
「……あはは。皆さん、温かい言葉をありがとうございます。さっき告白しました。でも、まだ途中なので、いまからちゃんと言います。盛大にフラれたら笑い飛ばしてください」
水戸くんは僕の方へ向き直り、両手を軽く繋ぎながら言った。
「理空、俺は君のことが大好きです。ずっと大事にします。だから、付き合ってください」
「はい」
気の利いた返事なんて、全然できなかった。
それでも水戸くんは、とろけるような笑顔でうなずき、ぎゅーっと抱きしめてくれた。
「見て、チャット。すごい、みんなあったかいね。これは俺たちが協力して築いてきた、視聴者さんとの絆だよ。ポイントが多いかなんて、関係ない」
[お姉さんたちの愛は全部有料コインに詰め込むからね!!!]
[もうチャット切っていいから、ふたりの時間を過ごしてくれ~]
[明日の朝、ポイント見て腰抜かして欲しいw]
水戸くんは困ったように笑いながら、「ありがとうございます」と言って、R18モードに切り替えた。
部屋が真っ暗になり、ドアロックがかかる。
水戸くんは、僕の背中を探りながら、ささやくように言った。
「エッチな理空が見たいな」
「ん、ぅん」
「俺に触られて、気持ち良くなっちゃうところ。ほんとは俺、理空の好きなところに、『エッチしてるときの顔』って書きたかったんだけど、やめたんだ」
「は、ずかし……」
「俺しか知らない秘密。理空のこんな顔。可愛い。大好き」
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