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第11話
腰を折り、惇生の投げた腕時計を拾い上げると画面にはヒビが入っていた。
大悟にとってはアルマーニの時計なんてどうでもいい。
惇生の左手首で脈を打って欲しかった。
少しだけ近づいた距離がこの時計のようにヒビ割れ、離れたように感じた。
「....これで良かったんだよな」
腕時計を握りしめた。
「....俺といたって幸せになれる訳がない」
もっと惇生の色んな表情を見たかったけれど。
怒った顔も、笑った顔も。ただ、泣く顔だけは見たくはない、泣かせたくはない。
大悟は惇生に渡した腕時計をスラックスのポケットに放り込んだ。
それから、1ヶ月の月日が過ぎた。
悠介から美香と付き合い始めた、と惇生は報告を受けた。
初恋は悠介。当時、小2だった。
単なる友達止まりだったが、中学で離れ離れになり、高校で再会したとき、勝手に運命だと感じた。
だが、悠介はノンケ。
好きな女子生徒が出来ては、彼女が出来ては、別れては、その都度、報告を受ける。
その度、胸を痛めた。
自分は普通ではないのだとも思い知らされた。
美香と付き合い始めた、と笑顔の報告に、不思議と、笑顔で、おめでとう、と言えた。
というより、もはや、悠介への気持ちが薄れているように感じた。
原因を考えたら、あいつしかない。
遊び半分で近寄ってきたに過ぎない。
所詮、出会いはゲイバーだ。
不意に、惇生の脳裏にあのゲイバーが思い浮かんだ。
何もかもをも忘れさせるかのような、煌びやかな世界。
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